第2話
二、
その夜、和子は万里を抱いて寝た。が、夜中に目が覚めた。太朗がまだ起きていた。太朗は和子に気づくとパソコンの画面からプリントアウトしてきた用紙を差し出した。
「日系会からのメールだ」
……会員の皆様へ
いわゆる歴史問題を背景とした、いじめ、嫌がらせ、差別、暴言等の被害に遭われた方やそのような具体的な被害情報をお持ちの方は、至急、下記に御連絡もしくは御相談ください……
和子の眠気は吹っ飛んだ。二度読んで顔をあげる。太朗は顔を腫らしたまま真剣なまなざしだ。
「現在、あちこちで同様の問題が起きている。以前から中国人と韓国人がこちらと違う歴史認識を広めている。そしてそれを信じる現地人も新たに日本人イジメを始めた。
大体、日系以外のアメリカ人は、日本人と、中国人、韓国人の区別がつかない。第一それぞれの場所も歴史も理解していない。それなのに彼らの主張だけが独り歩きしている。これはアメリカだけではない。世界中のあちこちで……会社組織どころか未成年対象の幼稚園でも小学校でも大学でも同じ現象が出ている。つまり、中国や韓国との接触がなかった国の現地人まで偽の歴史と被害報告を信じて、日本人をいじめるようになっている」
和子はまた体が震えだした。
「怖い……でも……なぜ、いきなりこうなったのだろう……万里の親友だったサランは韓国人、リンユは中国人……どちらのご両親も私は知っている。良識と礼儀をわきまえた立派な人たちよ。それなのになぜ話がそうなるの?」
太朗は頭を抱えてうめく。
「わからない。まさに日本人イジメ……ぼくたちの大事な娘、万里も壊されようとしている」
「あなた、この連絡先に万里が受けた被害を知らせたらどうなるのかしら?」
「よく読んでごらん。まず連絡を、だぜ? 連絡したらどうしてくれるのかは書いていない。案外、何もせず、統計を取るだけだろう」
太朗はそういうと乾いた笑い声を出した。しかし顔は歪み、目には悔し涙がにじんでいる。和子も同じ顔をしている。
「ねえ、私たち、これからどうなるのかしら。もうこの国には住めないのかしら。日本に帰れと言われるのかしら」
「ぼくたちはアメリカ人だよ。だが近年日本国内でも在日外国人が増えている。コロナ感染の危機が減ったら爆発的に増える。日本の行き先が誰にも読めない状態だ。それなのに帰れと言われても……」
和子は目を落とす。
「子供たちの世代でコレがはじまったら、今後の日本の将来は暗いわね。日本を目の敵にする人たちは思い通りになってきてうれしいでしょうね……」
「賠償ビジネスという言葉があるが、誰もそれを指摘できず解体もできず、それどころか国連のような組織まで動かして慰安婦を記憶遺産にしようという動きまであるからね。個人の力ではどうしようもない」
「まあ。あなたはどちらの味方なの?」
「では、なにかいい案があるか? 日本が過去になんども謝罪し賠償金も出している。それでも今なお事態は悪化している、この動きを止めるやり方が君にあるならぜひ教えてほしい」
「……とにかく、万理は無期限休学ね」
「退学させよう。ネットでの学校もあるから勉強は何とかなるだろう」
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