第70話

 しかし、剣が動かせずとも慌てることはなかった。


 傷の治療中に、この程度のことは簡単に思いついていたからである。


 僕は、頭蓋骨に突き入れたままの剣を一度手放すと、左手の盾を両手で構え低く腰を落とした。


 そして、迫ってきた〈大鬼オーガ〉の足元に向かって、全身の力を使って勢いよく突撃した。


 ガツンッ!!と、トラックが衝突したような大きな音と共に、ゴロゴロと地面に転げた〈大鬼オーガ〉をよく見てみれば、その左足は見事に途中から変な方向に曲がっていた。


 〈大鬼オーガ〉のこちらに迫ってくる速度と精霊銀ミスリルの盾の硬さを組み合わせ、ちょうどいい角度でぶつけることで〈大鬼オーガ〉の硬い脚の骨を叩き折ったのだ。


 本来は〈大鬼オーガ〉の脚の骨はそんな簡単に折れるものではないが、盾の寿命を捧げることで良い角度に攻撃が入り、骨を折ることができたのだ。



 僕は、無理な使い方のせいでへし折れてしまった盾を投げ捨て、地面にうずくまる〈大鬼オーガ〉の元に歩み寄ると、一閃、懐から銀色の光をきらめかせる。


 何かあった時のために持っておいた、護身用の短剣だ。


 これを治療中に戦闘に使えるように、砥ぎ直してもらっておいた。


 振るった精霊銀ミスリルの短剣は、足を抱えてうずくまる〈大鬼オーガ〉の首に吸い込まれるように近づいき、見事その首を掻き切った。

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