第59話

 連れていかれたのは、僕の知らない訓練場だった。



 「いやーね。ダメもとで模擬戦してる場面を見られたくないから普段使ってるのとは別の場所を貸してくれないかって、教官に言ってみたらさ、この場所を教えてくれてね。」



 その訓練場はいつも使っている訓練場よりも幾分か狭かったが、それでも二人しか戦う者がいないことを考えれば十分な大きさだった。


 何かがあった時のための最低限の人員はいるが、それ以外の人影は見えない。


 見られたくないという希望を、可能な限り叶えてくれた結果なようだ。



 「さて、これくらい離れればいいかな?」



 そう言って、彼が離れた距離は約100メートル、地球の基準でいえばそこそこ遠い距離だった。


 しかし、この世界であれば違う。


 ステータスというものが存在するこの世界では、100メートルなんて距離は数秒で到達できる距離でしかない。


 間合いとしては十分な距離だった。




 「じゃあ行くよ。」



 お互いが武器を構えたところで彼はそう言うが、すぐに動き出すことはなかった。


 それからお互いに緊張感がたまり続け、1分が経過した。



 「来ないのか?」



 僕のその言葉が、激しい戦闘の始まりとなった。

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