第39話
蟲の中に入って空を飛ぶという体験は、他ではしたことがない感覚であり、なかなかに新鮮であった。
蟲が降り立ったのは、やはり先ほど木々の間から見えた家だった。
しかし、よく見てみれば先ほど見えた部分はほんの一部分であり、すべてが見えていたわけではないというのが、よく分かった。
木々を抜けた先にあった家は、豪邸と呼ぶにふさわしいほどの大きさをしていた。
かなり大きな豪邸であるため、ここが世界三大魔境というとても恐ろしい場所と言うことを、一瞬忘れてしまいそうなほどであった。
しばらくその大きさに呆然としていると、いつの間にか入り口には人が一人、いや人型の蟲が一匹、執事のような姿でたたずんでいた。
「こちらでございます。」
執事のような姿をした蟲に、皆が気付いたところで、その蟲は豪邸の中に皆を先導する形で中に入っていった。
慌ててその後ろに続いて豪邸の中に入ると、また別の意味で呆然としてしまった。
普段、勤めている王宮で見慣れていたはずの宝石細工が、まるで石ころに見えるほどの、それほどの宝石があちこちに、絶妙なバランスであちこちにちりばめられていた。
流石に今度は、立ち止まりはしなかったが、目は奪われる。
自然と足の進みはゆっくりとなっていた。
やがて、ある部屋の前で足は止まる。
中には、今までと同じように見事な装飾がなされた客間が設置されてあった。
私たちは、執事のような姿をした蟲の勧めで、椅子に座って数分待っていると、突然、私たちが入ってきたのとは反対側にあった扉が開き、顔が完全に隠れる仮面と、体がすっぽりと覆える大きさのローブをつけた者が、中から現れた。
「やあ、ご客人。楽しんでいただけたかな?」
そう言って、私たちの机の対岸に座る者の声は、男にも女にも聞こえる、不思議な声をしていた。
そうして会談が始まった。
この豪邸の主人だというその者との会談は、とても長く続いた。
と言っても、その会談ではほとんどが豪邸の主人が質問して、その問いに私たちが答えるというものだったが、かなり常識的なことまで聞いてきたので、そこまで人とはかかわらなかったのかと思ったりもした。
結局、私たちが本調子に戻ったのは、会談が終わって再び蟲に乗り、帰っている途中であった。
後々に、私たちは豪邸の主人の質問に答えていただけで、聞きたかったことが何も聞き出せていなかったと知った時、豪邸の主人の話の誘導に流石と舌を巻くのと同時に、頭が痛くなるような思いだった。
豪邸の中では、やたら宝石がまぶしく見えた気がした。
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