第28話
「俺はその後、死に物狂いで逃げてきていたんだ。一応、逃げている途中にも知り合いを見かけたら逃げろと警告していたが・・・、恐らく無駄だったのだろう。いくつも悲鳴が聞こえたよ。」
そう言って、しゃがみ込み膝を抱えた研究員の男は、頭を抱えて震えながらうずくまってしまった。
「そうだ、賢者様たちがいるじゃないか!賢者様たちならそいつをどうにかできるんじゃないか?」
そう知り合いの研究員が、研究員の男を慰めたちょうどその時、2人の頭の中にアナウンスが鳴った。
《十大列強七賢第6位贋賢の死亡を確認》
《七賢列強候補者合計343名が選定完了》
呆然とする二人にさらなる絶望が襲い掛かる。
《十大列強七賢第5位鑑賢の死亡を確認》
《七賢列強候補者合計686名が選定完了》
《十大列強七賢第4位智賢の死亡を確認》
《七賢列強候補者合計1029名が選定完了》
《十大列強七賢第2位界賢の死亡を確認》
《七賢列強候補者合計1372名が選定完了》
たっぷり5分以上、2人は何も言えなかった。
当たり前だ。
誰が、いくら最高クラスと言っても実験体に、十大列強の4人が殺されると思うのだ。
だが、どれだけ否定したとしても賢者たちが死んだという事実は変わらない。
自らのステータスの称号欄にはしっかりと、七賢列強候補者という文字が刻まれているからだ。
列強候補者とは、十大列強が死んだときにその十大列強の数字の3乗の人数分だけその系統で優れている者が上位から順に選定されるものである。
選定されたものは選定から1時間以内に辞退しなければ、選定された者同士で戦いあい、どちらかが負けを認めるか、候補者が死ぬことでしか、数が減ることはない。
その候補者たちが、どんどん死んでいくのが称号から伝わってくる。
七賢が死んだのであれば、賢者という系統で優れている者が上位から順に選定される。
それはつまり、賢者たちの助手をやっていた者たちが真っ先に選定されるということである。
その彼らが次々と死んでいるということは・・・、もはや言わずともわかることだろう。
賢者たちを殺した実験体が、総合研究所の中で暴れまわっているということだ。
ある者は立ち向かうところを正面から、ある者は這ってでも必死に逃げる背中を、またある者はいまだに状況が掴めぬまま、それぞれの形で大量の蟲達に蹂躙されていった。
ちょうど今、部屋の中で呆然とする二人の研究員も、部屋についている通気口から入ってきた蟲たちに背後から・・・。
研究員たちの体力や魔力を大量に吸い、無数に増えた蟲たちは総合研究所と呼ばれる大きな建物を蹂躙した後、巨大な7本の塔や、何本も周囲に建つ塔を次々に蹂躙していった。
やがて、賢者の街、別名叡智の都市と呼ばれた街を廃墟に変えた蟲たちは、町の中心に立つ主人を守るため、主人の元へと戻っていった。
「ふむ、あれが賊王が仕入れてきたという最上位実験の有力者とされていた者か。なるほど、確かに強力な力を持っている。特にあの種族、6000年以上生きてきて初めて見る。これからはあれの観察をするのも面白いかもな。」
街が完全に滅ぶ直前、ある塔で1人、街が廃墟に代わる様子を眺めながら、そんなことをつぶやいた男は、生存者がいると察知された蟲たちに一斉に群がられた。
蟲が去ったあとには、倒壊した塔と1人の男のミイラがあった。
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