第27話
その日、賢者の街の中心にあるにある総合研究所は正体不明の厄災に襲われた。
ちょうど今、白い廊下を駆ける白衣を着た研究員の男も、その厄災から逃げている途中だった。
知り合いの研究員がすれ違って、研究員の男に問いかける。
「そんなに急いでどうしたんだ?深層区画も朝から騒がしいようだけど。」
研究員の男はその問いには答えずに、知り合いの研究員をものすごい勢いで引っ張って近くの部屋に連れ込んだ。
「おいおい、急にどうしたんだよ。」
突然のことに驚く知り合いの研究員に、研究員の男は小声でしかしものすごい剣幕でまくし立てた。
「静かにしろ!!奴らに、奴に見つかるだろうがッ!!」
「落ち着け、奴らって、奴って誰だ?」
その問いに少しは落ち着いたのか、研究員の男は少しずつ話し始めた。
「この研究所深層区画にはいくつも疑似神器があるが、その中に異界を観測するものがあるだろ。」
「ああ。確か、鑑賢様と界賢様の能力を使って贋賢様が創った神器の一つだったよな。今は最上位研究の監視に使っていたと思うんだが。」
「そうだ。今日の朝早くも、その疑似神器でそれぞれの異界を、各研究員が交代で監視するようにしてたんだ。」
研究員の男は、知り合いの研究員に確認しながら話を進める。
「俺はたまたま監視していた研究員に用があったから、その疑似神器がある区画に行って研究員と話していたんだが、それが起きたのは唐突だった。急に監視をしていた一人が異界の様子がおかしいと言い出したんだ。」
「そいつが言うには、異界の数が合わないらしい。確認してみれば、確かに数が合わない。それもいくつもだ。よく見れば、現在進行形で数が減ってすらいた。とりあえず、実験に参加している5人の賢者様たちに大至急で連絡を送ったその時だった。」
「目の前の空間がバリバリと割れ始めたんだ。俺は一番ドアに近い場所にいたから助かったが、その近くにいたらと今でもぞっとする。その空間の割れ目から大量の今まで見たことのない虫が湧き出てきた。」
「その後、1人の男がもうかなり大きな空間の割れ目を、さらに引き裂いてこちら側に乗り込んできたんだ。その男は今にして思えば虫を使うという特徴からして検体番号40番候補だったのかもしれない。」
「それも今では分からない。男が虫たちに何かの指示を出したからだ。男が虫たちに何かの指示を出した瞬間、男や虫に近かった研究員たちは一瞬でミイラとなった。俺と虫たちの間には疑似神器が置いてあったからこそ俺は助かったが、少し食らった余波は俺の体力と魔力をごっそりと削った。」
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