せい-しゅん【青春】
かたつむり
青春とは
せい-しゅん【青春】
①(五行説で春は青にあてる)春。陽春。〈運歩色葉集〉
②年の若い時代。人生の春にたとえられる時期
『広辞苑(第六版)より』
――青春なんて無かった。
世界を混乱に陥れたパンデミック。それは一国から始まり、瞬く間に世界中に広まった。SNSは噂やデマが飛び交い、何を信じればいいのかもわからない。
そんなことがこの時代に起こるものなんだなぁと考えながら、やることはひとつ。勉強、勉強、そして勉強。
一年前に志望校に落ち、諦めきれなかった僕は迷わず浪人を選んだ。諦めたら試合終了ってエラい人が言ってた気がする。その頃には既にウイルスは日本列島に上陸していた。そのため、予備校に通うという選択肢を捨て、一人で戦うことに決めたのだ。
いや、一人じゃなかったわ。この一年を思い返す。諦めたくないという自分の我儘に、両親は快く背中を押してくれた。衝突も多々あったが、ここまで支えてくれたことに感謝をしている。
「お疲れさま。温めて食べてください」
と食事とともにメモが添えてある。両親は共働きで帰ってくるのは夜遅くであるため、いつも作り置きをしてくれた。
今日はカレーだ。しかも温泉卵もついてる。やべぇうまそうだ。インドの宝石箱やぁ~
心があたたまる。
友人とは連絡を取らなかった。連絡を取れる友人がいなかったという方が正確だろうか。天下の帰宅部だったこともあり、先輩後輩の上下関係に縛られることもなく高校三年間を過ごしてきた。誰が陰キャだ、ほっとけ。
もちろん部活動に勤しむことを考えなかった訳ではないが、どこの部活も興味を引くことはなかった。自分で部を新設するという気も毛頭なかったため、眠気に耐える授業が終わるやいなや帰路についた。帰宅すると自室に直行しPCゲームを起動し、夕飯も忘れるほど熱中した。
「面白っ」
敵を倒す快感はどんなものにも代えがたく、ボルテージが上昇していくと戦績も比例して上がっていった。自分にも没頭できるものがあるということを証明してくれる。一瞬の判断が勝ち負けを左右するヒリヒリした感触が好きだった。強い奴らと刃を交える瞬間は興奮する。だがチート、テメーはダメだ。
ふと、こんなにも刺激的なゲームを作ってみたい、そう思った。どこの大学に行けば、それを学び、そういう企業に就職できるのか。調べてみたらある一つの大学がヒットした。家からも近く、学習環境も申し分ない。だがしかし。
「偏差値たっか……」
正直、無理だと思った。毎日ゲーム三昧の空っぽの脳みそでは到底届かない、雲の上の存在だった。しかし、負けず嫌いな僕はその日からゲームの時間を勉強時間に置き換えて必死に勉強した。昨日できなかったことが、今日はできるようになっている。苦手が得意に変わっている。その成長がゲーム感覚で楽しかった。敵を倒すように問題を解き続ける。
満を持して入試に挑んだ。あと一歩のところで志望校に届かなかったものの、落ち込んでいる暇はないと思い勉強し続けた。……ほんとは少し塞ぎこんだけど。
二年目はほとんど家に籠っていた。現役のころは図書館やカフェで勉強していたが、この情勢で外に出るのは憚られた。外出は気分転換になっていたため、それができないのはストレスが溜まった。あのカフェ、同じ学校の後輩らしきかわいい子がいたのにな。くそう。
成績の伸びが悪くなったことも伴って、気が滅入っていた。ストレスを打ち消すように勉強に打ち込んだ。
そういえば、最近はTheretubeという動画サイトで動画を投稿するのが流行っているらしい。息抜きに見てみると、これがなかなかに面白い。ゲーム実況というジャンルもあるようだ。受験が終わったらやってみようか。陰キャだからできないって?うるせーやってみなきゃわからんだろ。
そうやって鬱蒼とした気分を晴らしていった。
そして今日、志望校の合格発表日になってしまった。
ここまで来て急に弱気になってきた。ああ、やっぱりだめかも。
大学のホームページを開く。見たい。見たくない。……やっぱり見たい。
このボタンを押したら、わかってしまう。やばい、動悸が……
目を閉じボタンを押す。
恐る恐る目を開く。
あなたは〇〇大学入学試験に合格しました。ついては、〇〇年〇月〇日までに入学手続きを……
――青春なんて無かった。そう思ってた。
――でも努力が報われた瞬間、僕が無いと思っていた青春はそこにあったんだ
――何かに全力を尽くしたあの日々はまぎれもない青春だった。
――美化されてるって?別に良くない?それで。
せい-しゅん【青春】
①本当は存在しているのに、気が付かないもの。
➁美化された思い出。これこそが人生の春。
せい-しゅん【青春】 かたつむり @potinki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます