第4話 もうすぐ始まる
「シンカ様は良いとして……現状の問題としては人材不足に尽きますね」
「ふーむ、どういったところでそれを感じているのかな?」
「我々ボール商会はシンカ様の叡智によって成り立ってます。叡智とカリスマ、それに従う者たちの集まりと、それに群がる乞食どもが形成しています」
「乞食とは言い方が悪いね」
「シンカ様は優し過ぎます! その優しさに救われた者として言うのはアレなのですが、誰も彼も救っていっては限界が来ます。ただでさえ足を引っ張ろうとする者たちが居るのに」
現在、俺は会長室でジャインと会議中だ。
聖女のユアを仲間にし、孤児院の問題は六割がた解決したと言っていい。商会の方は大きくなるスピードの早さに、肝心の人材の育成が追い付いていない。
最近は他の商会が手を組み邪魔をし、貴族からの圧力も少なくない。
「強い後ろ盾があれば良いんだけどね」
「シンカ様の父君は?」
「これ以上父さまのお力を借りると、正妻に付け入られる事になる。彼女はもはや敵なのだよ」
「ままならない物ですね……」
今必要になっているのは纏め上げる人材に、私設の騎士団、強い後ろ盾だ。
例のアレをする時が来たか……。嫌だなぁ。
「あの話を受けるかな」
「――!? だ、ダメです!! 一生を左右する問題ですよ!? もっと真剣に考えるべきです!」
「個人的な感情はさておき、メリットが大きすぎるからね……それに最近はいろいろと煩わしいし、受けたらそれも収まるだろう」
「むう……勘違いしないでいただきたいのは、私はシンカ様の幸せを願って言っているのです。今回のソレがシンカ様の幸せに繋がるのなら反対はしません」
何を言っているのか解らないと思うが、話は単純だ。俺は四つの公爵家が一つ、サツカア家の長女との間に婚約の話を頂いている。
コンサ・サツカア――初代の登場人物で、主人公のライバルキャラの一人。
ゲーム内でコンサは初代の攻略対象の一人、第二王子の婚約者だった。主人公の前に立ちふさがり、攻略の邪魔をするという面では悪役令嬢と言ってもいいだろう。性格などは全く違うが。
それが何をとち狂って、俺の婚約に踏み切ったのかは謎だ。この世界に置いて彼女は第二王子の婚約者ではない。それどころかサツカア家は何故か落ち目の家になっている。本当に何故だ?
「どうしてジャインはそんなに心配なのかな?」
ジャインなら知っているのかもしれない。
そもそもこんなに反対するのがおかしいのだ。公爵家の次男がここまで婚約者の一人も居ない方が不自然で、実際に俺はあらゆるアプローチを他のお家から受けている。
歳が六つ下の弟(正妻の子)がすでに婚約者が居るくらいだし。
「ふう、シンカ様……言ってはアレですがサツカア家は落ち目です。どう見ても市民たちから絶大的な信頼を勝ち取っているシンカ様を利用しようとしているとしか思えません」
「そこが疑問なのだよ、あまり社交界に出なかった弊害か疎くてね。どうしてサツカア家は落ち目に?」
「六年前の第二王子誘拐未遂事件をご存じで?」
「うん知っているよ」
それを解決したのは俺だし。
「その時に首謀者の疑いを掛けられたのがサツカア家です。もちろん白でしたし、彼らにそう言ったことをする理由もありません。しかし一回でもそういった疑いを掛けられた者たちを、市民は信用しません」
ど、どいうこと? え? なぜそうなるの?
オカシイ……設定資料集に載っていたから、俺が未然に防いだはずだ。それが何をどうしてこうなる。
いや、イヤな予感がしてきた。
冷静に考えて、その事件がきっかけで第二王子とサツカア家の長女との間に絆が生まれたとしたら? 俺が余計なことをして、サツカア家に疑いが掛けられたとしたら?
バタフライエフェクトとでも言うべきか。俺のちょっとした改変が、結果的に大きい改変に繋がっている。
「――私はこれからサツカア家に向かう。申し訳ないが商会は頼んだぞ」
「わ、分かりました。サツカア家に連絡は入れておきますね」
上着のジャケットを羽織り、俺はサツカア家に向かった。
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