初代
第3話 家族
十五歳になった俺はボール商会の会長として日々を過ごしていた。
最初に建ててもらった店は支店として活用し、例のスラム区画に本店を構えた。四階建ての大きな建物の最上階に会長室を造り、そこが俺の居住スペースにもなっている。
本店の裏に孤児院が在り、そこの管理を商会の者たちに任せている。学業にも力を入れ、日本の義務教育を参考にマニュアルを作り教師役に教えてもらっている。
俺も一週間の月曜日に教師として教鞭を振るっている。
因みに日本人が作った日本のゲームだけあって、一週間は七日間で、月曜日から日曜日まである。一年は365日だ。
かつては王都のゴミ溜め、汚点と言われた区画も必死の整備により他の区画と遜色ないほどになった。
俺の一週間のスケジュールを教えておこう。
月曜日、孤児院で教師をする。
火曜日、商会の仕事。
水曜日、例の農村の視察。
木曜日、商会の仕事。
金曜日、商会の仕事。
土曜日、挨拶回り。
日曜日、休み。
日本人として働いていた俺としては、かなり楽をしているつもりだ。しかしこの世界にとっては働き過ぎという評価らしい。
どうにも生き急いでいるとか、忙しないという評価ばっかり貰う。
市民――ああそうだった、説明不足だったな。この世界、平民を平民と呼ぶことを差別と捉えられる。これも四代前の王の悪政による軋轢を緩和させるための策の一つだ。
俺が作り出した商品をいくつか紹介しよう。
女性用下着――まあ所謂ブラなどだ。この世界はもともとノーブラで垂れまくっている世界だ。女性はもちろん、男性にも大好評だ。主にプレゼントとして。
人為ポーション――この世界のポーションは何でもありの薬だ。肉体の回復や強化のドーピングはもちろん、植物の成長促進、物の修復、魔物に対する攻撃手段等々。しかし世界樹などを含む特殊な樹木からの朝露でしか作れないのだ。それを農村で作られていた作物で作ることが出来た。まあ、天然よりは効果が劣るが。
嗜好品の数々――コーヒー、この世界にないデザート、甘味系の調味料等々。シナリオライターが何かを勘違いしたのか、この世界には紅茶くらいしか無い。
まあ、飛ぶように売れるよね。
大体この世界の矛盾やおかしいところは――。
『日本のゲームだから』
『シナリオライターの知識不足』
『日本人がプレイするから』
と言う上記の三つで説明がつく。
この前、いや一年ほど前に正妻に、「この商会を息子に譲りなさい」と言われた。
いろいろ理由を付けて突っぱねたが。
スクリュー家の子供たちは今、結構な格差が生まれてしまっている。
妾の子、上四人が優秀過ぎて評判も良い。正妻の子たちは出涸らしと言う評価で、正妻が常に発狂している。
長男が学園の首席で、剣の達人。未来の騎士団長候補、そして第二王女の婚約者。
長女が学園の華、魔法と剣の達人。第一王子の婚約者。未来の妃。
次男が俺。
三男は魔法のスペシャリスト。
「――と言うわけで困ったものです」
俺は孤児院で孤児たちに教育を施していた。
今は三十人しか居ないが、これからもっと増えていくだろう。
「シンカさま~、どうして貴族と市民で分かれるの? 同じ人間なのに」
「良い質問だ、がこの孤児院でも上に立つ者も居れば下でただ言われたことをやるだけの者も居るでしょう。結局はどこも同じなのです、言葉を変えて言うだけでね」
質問した彼女は、俺にとって重要人物だ。
十歳になった彼女は、くりっくりの可愛らしい目をした黒髪黒目の美少女だ。
裏ボス、魔王の転生体だ。
タイガと言う名。
彼女を魔王として覚醒させ、その上で俺の部下として働かせるべく、俺は賭けに出た。それが実を結ぶかどうかは、神のみぞ知ると言ったところか。
「シンカ様、彼女が参りました」
「そうか、ついに来たんだね。ありがとう、連れてきてください」
「かしこまりました」
俺の秘書を務める、ジャインが腰を折り部屋から出ていく。
本当に有能な男だ。長い白髪を靡かせ、俺が最初に渡したスーツを律義に着ている。
ジャインは3の登場人物で、能力が高いのに生まれのせいで不遇な扱いを受けてしまう。そこを、俺がそうなる前に救済した。
忠誠心がマッハで、正直怖い。俺より身長が高いから威圧感が有るんだよなぁ。
この世界に転生して解ったのは、顔が整ってるやつは真顔が怖いということだ。
「お呼びいただきありがとうございます。あの智王にお会いできて光栄です」
ジャインが連れてきたのは、漆黒の修道服に身を包む優しき笑顔の女性。
大きい胸と尻をくっきり浮き出させるぴっちりした服だ。
金髪碧眼の巨乳美女。エロゲーならまず一人は居る属性だが、乙女ゲームでこういうキャラが居るのは意外過ぎる。
俺がエロゲーと乙女ゲームをやり、気が付いたことがある。エロゲーはモブもメインも色鮮やかな美男美女が揃うケースが多い、しかし乙女ゲームはメインがカラフルでモブは黒や茶色などの目立たない色が多い。
つまり、こんなに目立つ女はメインの一角なのだ。
智王とは俺の異名らしい。なぜ?
「いや、私のような若輩が貴女ほどのお方を呼びつけたのは不敬と言われても文句が言えませんね。――してお願いがあるのですが」
「フフフ、かの智王が何を」
彼女の名はユア・アイン・アユ。
5の登場人物で、もう一つの大陸で英雄と呼ばれるパーティの一員だ。
実力で言うと、ぶっちゃけこの大陸の人間は誰もタイマンで勝てない。
「――つまり私が孤児院の院長を?」
「そうです、あれは私の可愛い家族です。言い方は悪いですが、本当に信頼に置ける者でしか務めさせたくはありません」
聖女と呼ばれる彼女は、設定上一番の優しさを持つと資料集に書いてあった。
「フフフ、老後の生活は孤児院の院長ですか。悪くないです」
英雄パーティのメンバーは数百年生きている。かつての魔王を倒したときに死ねない呪いを掛けられたのだ。そら強いわ。反則じゃない? 数十年しか生きることが出来ない俺たちが、数百年研鑽詰んだ奴に勝てる訳無いじゃん。
こいつらには本当に苦しめられた。言っとくけど、5では敵だからねこいつら。
しかし、背筋が凍る。
聖女のせいではない。
「―――――――」
ジャインが聖女を睨んでいる。
これ絶対「つまり私は信用されてない? この女の方が?」と思ってるに違いない。忠誠心の高さは利点で有って欠点では無いはずなのに。
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