第2話 優しさを武器に

 マジかシリーズの舞台、スチルバットは四代前の国王の悪政により市民と貴族との間に軋轢が生まれてしまった。


 ここでマジかシリーズの設定について少々詳しく教えておこう。


 世界観は所謂中世ヨーロッパで、ベルボースと言う大陸が舞台だ。

 この大陸には五つの大国が有り、周辺の小国を傘下にしてお互いを睨み合い、危うい均衡状態を保っている。


 人間の国が睨み合っている間に、異種族は同盟を裏で結ぼうとしている。


 更に魔族、魔物が徐々に力を着けている。


 生まれ持った魔力の最大値は変化せず、それをどう使いこなすかが戦闘のカギとなる。


 初代ではスチルバットの隣の国、ウッドバットが侵攻して来る。

 2は異種族の同盟軍とウッドとの連合軍で向かい打つ。

 3は魔族と人間の国家との戦争。

 4は魔族側の話。

 5はもう一つの大陸との世界を掛けた戦い。


 スチルは三代前の王が立て直そうと必死に働き、今代にまでそれが為されている。が、どうしてもしこりは残ってしまっている。


 俺は街に出て、市民たちに寄り添うことにした。


「あの子何してるのかしら?」

「あの紋章は、スクリュー家よ?」

「うそ、なんで貴族があんなことをしてるのかしら」


 俺は街に出ると、必死にゴミ掃除を始めた。


 周りの市民たちは遠巻きに不思議そうに眺める。


「何か困っていることはありませんか?」

「え? そ、そうだな……特には無いかな」


 いろいろな人の助けになるように、相談を受ける。

 宿屋や道具屋などの店にも赴き、手伝いをする。


 困っている人が居たら積極的に話しかけ、出来る限りのことをしていく。


 そんなことを一年もしていれば、市民も受け入れてくれる。

 最初こそ困惑し、下手したら貴族の道楽と思われ敬遠された俺も、いつの間にか積極的に話しかけてもらえるようになった。


 一年の間に数多くの仕事をこなした。

 公衆の便所掃除や、公園などの施設を整備していく。もちろん子供ながらに出来ることだけだが。

 年寄りの介護や、店の仕事を手伝っていく。


 これはあくまでも下地作りだ。


「父さま、どうしても建てて欲しいものが有ります」

「シンカ、お前がここまで頑張ってきたのは私も評価している……出来ることなら叶えてやろう」


 父、つまり公爵家の当主、スライだ。


 勘違いされがちなのだが、父は意外にも子供に甘い。俺たちに冷たいのは正妻の方である。


「――孤児院? なぜそんなものを?」

「困っている子を見過ごせません、大人ならば自分の力でどうにか出来るでしょう。しかし頼る大人の居ない子供には『死』しか待ってません」

「うむ……分かった、だがお前が責任もって経営していくのだぞ?」

「はい! まだ七年しか生きてない若輩ですが、精一杯努力します」


 この世界、子供であっても働く者は働くのである。


 父は早速街の一画に孤児院を建てた。

 工事中、俺は作戦を立てていく。


 どうして俺が孤児院を造るのか、それは一人の少女を『裏ボス』にしないためだ。


 マジかシリーズ五作品共通の裏ボスが存在する。それこそが魔王である。

 魔王には魔王魂と言われるものが在り、それが在る限り無限に転生できるのだ。それを宿した少女が居る、彼女は孤児で一人ぼっちの可愛そうな子だ。


 彼女が魔王に覚醒したら、そのまま裏ボスとして主人公が戦うことになる。

 覚醒のキーは孤独だ。だから俺が家族になる。


 それだけでは無い、この後俺は商人になる。

 原作知識だけではない、現代知識でのし上がってやるぜ。

 その為にも、部下を集める。


 孤児院建設中に俺はある区画に赴いた。

 ここは所謂スラム街だ。


 スチルの王都にひっそり在る区画、そこには居場所を失った者たち、借金まみれに逃げ込んだ者たち、孤児などが居る。


 ここに住む者たちは飲む水も、食う物にも困っている。


 俺は簡易的なろ過装置を作り出し、スラム区画の至る所に設置した。

 更に街の飲食店などに頭を下げ、要らなくなった食材や部位を貰いスラム区画の者たちに分け与えていった。


 こういった場所に堕ちた者たちは、疑心暗鬼になっている。だから俺自身が毒見をしたり、汚いからと言われようと構わずに彼らに寄り添う。貴族のやることじゃない、と言われたら「同じ人間ですよ?」と笑って寄り添う。


 二年の歳月を経て、孤児院の経営とスラム区画の信頼を勝ち得た。


 父からも褒められ、自慢の息子と称えられる。

 だから俺は商会を立てたいとお願いした。二つ返事で許可をもらった。それがこの三年間で俺が父に、周りにと積み重ねた信頼である。


 現代知識無双と言えばよいか、売る物には困らない。 

 この世界にはない物を大量に作っていく。


 それで得た資金を市民に貢献するようにと、街と街を繋ぐ街道の整備を行う。スラムの者たちが従業員で有り、俺の駒である。彼らの協力もあってどんどん改革が進んでいく。


 とある農村を買い取り、彼らの作るある作物を利用する。

 これは4で明かされる、人為ポーションの素材になる。


 俺は騎士団を作った。

 俺は優秀な秘書を手にした。

 俺は聖女を孤児院の院長にした。

 俺は魔王を部下にした。

 

 俺は、いつの間にか世界一の男と称されるようになった。

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