プロローグ
第1話 才能無いってはっきり解るね
乙女ゲームと言うものをご存知だろうか?
主に女性がプレイする恋愛ゲームであり、主人公の女性が攻略対象の男性たちを落としていくのが基本的なゲーム内容だ。
ギャルゲーやエロゲーとは真逆のゲーム。
俺はもちろん男としてそんなものに興味は無かったのだが、妹が難しいと匙を投げたので代わりにやったのが一週間前のことだ。
『マジカル学園~マジカルマジか?』
通称マジかシリーズと言われる、乙女ゲームの最高傑作と名高い作品だ。
乙女ゲームにあるまじき五作品出た、異例の作品だ。
初代マジかはシナリオとキャラデザが好評だったが、肝心のゲーム面が不評だった。魔法の世界を舞台にしたシミュレーションゲームで、学園での三年間で他国の侵攻を阻止するのが目的のゲームだ。
マジか2ではゲーム面に力を入れ、大手エロゲーメーカーの力を借りて完成された。しかし新人だったと言う理由だけで好評だったシナリオライターを変え、複数の乙女ゲームを手掛けたライターを起用したところ、ツッコミどころだらけになった。
マジか3では今までの反省を活かし、すべてにおいて好評だった。ライターを初代の人に戻し、ゲーム性は2を更に快適にした。最高傑作と名高い。
マジか4ではマンネリを打開しようとしたのか、新要素を盛りだくさんで作った。しかしそれが裏目となり、大不評で中古が溢れた。
マジか5は原点回帰で作られ、3の様な出来となった。集大成の最終作として裏設定から今までの伏線から、すべてを叩き込んだ。が、難易度が跳ね上がった。
マジかシリーズは前作データをファイルに入れていると、ゲーム内特典があるために初代から一気にプレイした。
設定資料集、アニメ、漫画もすべて見て攻略した。
そして俺は死んだ。
え?
「母さま、私はいつも通り師範の下に向かいます」
「はい、行ってらっしゃい。ケガしないようにね?」
誕生日に母に貰った木刀を背に、俺は師範が待つ道場に向かった。
「シンカ、よく来たな。早速始めろ」
「はい! 師範、今日もお願いします!!」
三年も通えば堅苦しい挨拶など無く、流れで始まる。
まずは座禅を組み、瞑想だ。
これは魔力を高めるほか、体に纏い身体能力を上げるために行う。もちろん精神統一の意味合いも含まれる。
瞑想をしながら、俺はここまでの日々を思い浮かべる。
日本に生きた俺は、過労死した。
目が覚めた俺は、自分が赤ん坊であるとすぐに理解した。親などが話している言葉が日本語であったため、日本に生まれ直したのかと思ったが違った。
二年ほどこの世界で生き、ここがマジかシリーズの世界であると理解した。
俺はマジかシリーズの舞台の国、スチルバットのスクリュー公爵家の次男に転生したようだ。
この国は四つの公爵家が有り、その中でも筆頭のお家だ。作中ではこの家の長男、つまりは俺の兄が初代の攻略対象だ。ちなみに三男が2の攻略対象だ。
俺? いや……知らんな。出てきて無いのよ、マジで。
俺たち上四人の兄妹は妾の子であり、継承権は下の兄妹より低い。まあ奴らはまだ生まれてないのだが。あと一年で五男が生まれる。そこから八人ほど、つまり計九人の子を正妻が生むのだ。
兄と姉が双子であり今は六歳、俺が一つ下の五歳。もう一つ下の弟が四歳だ。ここまでが公爵家の当主――父が一人のメイドに産ませた子だ。
俺は二歳のころからこの世界が乙女ゲームの世界だと気付き、剣術を習っている。そら俺も男だし、剣や魔法で暴れたいじゃん?
「――よし、そこまで! シンカ・スクリュー、今日はお前に模擬戦をしてもらう」
シンカ・スクリューとは俺の名だ。
今までそんな物はしたことが無い。ついに本格始動って訳か。
「入ってこい、ナックル!」
ナックル!? 長男やんけ。
ナックル・スクリュー――初代攻略対象で、騎士団の団長になる男。
「はい……シンカ、君の努力は俺も分かっている。だからこそ君に感化され、俺も今日から剣を取る。先輩としてよろしく頼む」
ナックルは礼儀正しくお辞儀をし、道場の中央にやって来た。
今日初めてとは思えない風格だ。
ナックルはスクリュー家特有の金髪赤目の長身の男だ。六歳で長身もくそも無いが、大人になれば190越えの身長になる。長く絹のような金髪を一括りにし、爽やかイケメンフェイスの男だ。
俺も当然金髪赤目だが、こいつほどはイケメンではない。
木刀を構えたナックルは、とんでもない殺気を俺にぶつけてきた。そして俺も構える。カタカタと木刀が震える、武者震い? 違う、恐怖だ。
「始め――」
師範の声と共に、ナックルは一歩踏み出した。
そこから先の記憶が無い。
「――俺は?」
「起きたかシンカ」
「師範?」
目覚めると師範が顔を覗き込んでいた。
そうか、俺は負けたのか。
「まさか今日初めて剣を握った男に負けるとは思いませんでした」
「……お前には才能が無い。今まで言えずに済まなかった」
どうやら師範は俺に剣の才能が無いことを気付いていたらしい。しかし俺が無駄に頑張るせいで、言えずにいたらしい。
兄は初日にして、実戦に入るそうだ。
これが原作キャラの力か……。
「剣がダメなら魔法が有ります、だからそんな顔をしないでください母さま」
屋敷から離れたところにある一軒の小屋、これが俺たち家族の住む家だ。公爵家の敷地内に有るだけマシか。
母に剣術を止めると言うと、悲しそうな顔をする。
どうやら師範に前もって聞いていたらしい。俺に才能が無いことを。
この時の母の顔を見たら気付きそうなものだな。まあ、気付かないフリをしていたのだろう。
一年後、正妻の長男が生まれた年に俺は魔法学園の試験を受けた。
「君は知識も情熱も探求心も素晴らしいものが有る、しかしこの学園に入る為の基準に魔力が達していない」
俺は落ちた。
翌年、弟が歴代最高の数値をたたき出して合格した。
長男はすでに剣の才を発揮している。姉は社交界の華と称される。弟は魔法の天才だった。
俺は……?
こ、こうなったらやるしかない。
個人的に前世の記憶を頼りにするのは反則と言う気持ちがあり、あまり原作知識を使わないで来た。しかし俺に才能が無いなら、もうそれにすがるしかない。
俺は街に出た。
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