#4 守りたい人、守る人

 清水が百合に詳しいのは確かだったが。提示される要素が複合的すぎて、話を聞くほど香永は分からなくなってきた。

「なんか話を聞くほど混乱してるんだけどさ。いわゆる女の子感、華奢で可愛い守ってあげたい……沙由さゆみたいな雰囲気がマストだって話じゃないの? 東照宮の『眠り猫』みたいな世界観とか、女子アイドルへの憧れとか。私みたいな女からすると、そっちの方がよほど納得なんだけど」


 沙由というのは、同期部員である香永の幼馴染みである。物心ついたときから一緒だが、それでも慣れないくらいの可愛いの塊だ。

 対する香永はというと、自分より大柄な女子がクラスにいたことはない重量級パワータイプである。力を使う運動では常にぶっちぎりだったし、運動部や年上はともかく、目の前のモヤシ男子なら組み合っても勝てそうだった。


「香永の言う【女の子感】が要素として大きいのは否定しないよ、庇護欲とか憐憫が尊さに通じる作品もあるし。

 けどそれに劣らず、戦闘系ヒロインも覇権ジャンル。日曜朝の変身ヒロインとか国内最大手だし、時代を問わず女性軍人が絡むの多いし。この前に敵どうしの戦士百合で泣いたもん」

「お前ってフィクションで泣くのか……」

「人前じゃなければ泣くわな……あと外見の話、例えばさ。美貌のお嬢様と、顔に傷のある召使いの娘がいたとしてさ。召使いが傷でいじめられるのから助けるために、お嬢様が自分の顔にも傷をつけたとしたら、それはかなり百合強度が上がってると思うのよ」

「痛そうな話だけど、友情としては分かる」

「でしょ? あと大食いと料理好きのカップリングとかもあったし、年の差で老女と幼女とかもあるし。言うほど美少女ばかりか、というとそればかりではないと思う」

「……じゃあアレか、私と沙由みたいな、『美女と野獣』然とした組み合わせでも百合か」

「むしろなんで百合だと思ってなかったの、特濃幼馴染百合だよ……あと自分で野獣呼ばわりはどうなのさ」

「ほっとけ、好きでやってんだよ」

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