#3 その距離は広く、深く、

 咳払いをして、清水は説明を続ける。

「で、今までは同質性とかシンクロの話をしてたけど。根本は近いけど立場は違うってのも盛り上がるわな。シンクロとギャップが同居して独特さが増していくの。先輩後輩、年の差、上司部下、ファンタジーだと異種族もあるし……距離が近くて立場が違うって点で、姉妹とか親子もあるし」

「家族間……ギャップというかハードルじゃないのか?」

「そう、その話!」


 香永の何気ないツッコミに、清水はさらにエキサイトする。

「百合は男女よりも関係性の解釈が流動的なんだよ。友情、敬愛、家族愛、それらよりも深いけど恋愛とも言い切りにくい曖昧さ。スキンシップのハードルは低いのにゴールが定まりにくいゆえの長く濃い時間感覚。特に姉妹間は、距離感とか同質性が突き抜けているから沼なのよ……」

 姉妹間、という例に。一卵性の双子ながら正反対の雰囲気に育った後輩を思い出す。

「つまり、伊綱いづな姉妹とか?」

「一目見てやばいって思ったから近づかないようにしてる……騒ぐの絶対迷惑だし……」


 再び意識を飛ばしそうになる清水を連れ戻すべく、香永はさらに疑問をぶつけていく。

「恋愛とも言い切りにくい、って言ってたけど。その割り切れなさはどう捉えてるのよ」

 昔ならともかく。2010年代も半ばの現在、女性間では恋愛に至れない、というのが通る社会ではない。


「結ばれない儚さが前提の作品もあるっちゃあるし、作品の世界設定にもよるから何ともいえないんだけど……僕からするとどっちでも尊い、になるかね。

 特別さを増しても恋愛には踏み切りにくいって通念は少なくないし。そこから、恋愛に至らない切なさや絶妙さに行っても、恋愛に振り切っていく解放感に行っても、どっちにしろ特別さはあるから。後、特に最近、実在の同性愛との関係も論じられる気配あるし、研究課題は山積しているんだよ……」

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