#2 心身ともに、深く優しく

「キヨが詰んでるのはともかく、百合じゃなきゃダメな理由は分かったよ。

 ……けど、百合オタの全員が男嫌いって訳でもないだろ。陽子ようこさんとか、彼氏いるけど女の子ラブだし」

「つまり、男嫌いによる消去法以外の理由もあるだろって?」

「そうそう……まあ、そりゃ可愛い子どうしでキャッキャしてたらもっと可愛いとは、女からしても常々思うけど」

「可愛いどうしでもっと可愛い、のは間違ってないし、メインストリームが美少女どうしなのも確かだけど。キーはそこじゃないんだよ」


 これはどうも話が長くなりそうだ。

「じゃあなに、百合のキーは可愛いじゃなくて」

「尊い」

「尊い」

「イエス、尊い」

「precious」

「priceless」

「invaluable」

「そんな単語あったっけ……うわ辞書にあった、香永先生さすがっす。

 ともかく、可愛い、美しい、燃える、萌える、泣ける、その全てのルーツは『尊い』であると思ってくれていい」

「ぶっちゃけ、私はまだよく分からんけど……例えば?」


「一番分かりやすいの、やっぱり共感だと思う。男子が簡単に踏み入れないところまで分かち合える、だから心身ともに深く優しい触れ合いにつながる、その深さや機微の繊細さが尊い」

「それって男性どうしでも同じじゃねえの?」

「通じるところはあると思うけど、やっぱ精神的に遠いじゃん男女は……それに子供とかじゃなければ、男だとどうしても挿れるのどうのって話になりそうじゃんか。実在はともかく、BLで順番の話になりやすいのもそうだし」

「挿れるっていう侵襲性がないゆえのピュアさってことか」

「その辺かな……後は精神的な響き合いも大きいし」


 同じゆえの、というと。部活の仲間に顕著な女子コンビがいたのを思い出す。

「ヒナ詩コンビのシンクロ率がヤバイってのもそれ?」

 先輩の詩葉うたはと同期の陽向ひなた、仲が良すぎるだけでなく歌や踊りの揃い方も神がかっているのだが。

「どんぴしゃ。ああいうペアを間近で見ていると……尊いどころか、気が狂うレベル……」

 頭を抱えて深い溜息をつく清水。気が狂うという形容も、強ち間違いではないのかもしれない。

「キヨがヒナ詩どうこうって言わなくなったの、中毒予防だったんかい」

「ご明察……まあ、それだけじゃなくて。本人の前で外野が騒ぐの、デリカシーなくてダメだなって気づいたから自粛してるんだよ」

 雑談では飄々としている彼には珍しく、真剣に反省しているらしかった。百合オタクなりの線引きがあるらしい。

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