百合を理解しきれない百合オタク男子による百合の話

いち亀

#1 だって男が嫌いだから

「お前さ、なんであんなに百合が好きなの?」

 合唱部アルト・香永かえが同期テノール・清水しみずへと訊ねると。彼はしばらく沈黙してから。


「……真剣に答えると一時間は尺取ってほしいんだけど」

「や、そんなにいらん」

「分かってる、ってか香永はなんで聞きたいの?」

「深い理由はないよ、クラスの友達が百合アニメの話してただけで」

「あ~そういう……」


 しばらく清水は唸ってから、水筒を一口。まだ他の部員が来ていない二人だけの部室、男女で本音トークをするには良いシチュエーションだ。


「僕の場合、自分を含めて男が嫌いだからって理由がそれなりに大きいのよ」

「……初耳だぞ?」

 常に女子の方が多いとはいえ、どの学年にも男子がいる合唱部だ。清水も女性陣とはよく喋る方だが、それにしたって男子部員と接している方が長いし、仲の良いバスのOBだっているのだ。


「男っていうか、男の体? 触れあいを想定したときの男の体」

「ああ……そりゃ私だって、下半身は進んで見たくないわ。筋肉は好きだけど」

「マッチョ推しなのね了解……ともかく僕は、恋愛とか性的なものに男が絡んでるのがそんなに好きじゃない。体つきが嫌いってだけじゃない、どうしたって女性の方が大変だろうってバランスの悪さが後ろめたい……そりゃ、男とヤるの大好きって人もいるだろうけど、僕には分からんし」


 この話の流れで、香永にはどうしても気になる点があった。気軽に聞いていい話ではないが、今回は避けて通れない。

「嫌なら答えなくていいんだけどさ。清水キヨの……その、性的な興味って」

「女性に対してハッキリあるよ、人並みかどうかは分からんけど」

「はあ? ……面倒くさいってか、難儀だなお前」


 欲望があるのに自分が関わるのが許せないの、詰んでないかそれ。

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