キミに魅力は伝わらない

神凪

この男は気づかない

 もう、無駄なことはわかっている。この男のことだ、絶対に私の気持ちになんて気づかない。

 というか、もはや気づかなくてもいいのでは、という結論に至りかけている。


「だって、何年一緒にいるって話だし……」

「なんか言ったか?」

「ううん、なんでも。それより、さっきからそんなスマホに向かって唸ってどうしたの?」

聖音さとね、お前今年の運気残ってる?」

「運気? 多分……」

「……いや、大事な幼馴染みにガチャで運気を……いやでもなぁ……」

「限定ガチャか」

「当たり……」


 そう、この男。鳴上空翔なるかみそらと、私の幼馴染みにして重度の二次元美少女オタクのこの男。

 別にそれを否定するつもりはない。むしろそれを隠さないというのは勇気がいることだと思うし、素直に尊敬する部分もある。人として欠落しているわけではないし、運気というよくわからない部分ではあるが躊躇いを見せてくれる。

 ここまでベタ褒めすればバレているだろうが、私はこの男のことだ好きなのだ。


「いいよ、引いてあげる。このタイミングでキミがそれを聞くっていうことは、前のガチャでいいの引いちゃったんだ」

「そう……まさか推しガチャが二連続で来るとは」

「……その時点で運気を使い切ってる気がする」

「同じく」


 そう言いながらも、空翔はスマホを手渡している。さて、今回はどんな女の子なのだろう。できれば私に似ていてくれたら嬉しい。


「この子……?」

「そう。デバッファーで優秀で周回回転効率が……」

「うん、いい。わかった。とりあえずこの子を引けばいいんだ?」

「頼む」


 頼まれてしまえば仕方ない。十回分のガチャのボタンを、なるべく無欲でタップする。

 現れたのは虹色の画面。よくわからないけれど、おそらく最高レアリティの確定演出だと思う。なんか豪華に見えるし。

 いや、ここで喜んではいけない。キャラを見るまでが勝負なのだ。多分。

 再び画面をタップ。おそらく重複したであろうキャラクターがすらすらと流れていく。

 そして、なんか光った子が出てきた。


「あ、出た」

「おお……おおぅ……おお……」

「……うん、出ちゃった」

「ありがとう聖音。本当にありがとう」

「よかったぁ……」

「……明日事故ったりしないよな?」

「う、うん? 多分大丈夫だけど……」


 やはり、心配するところが謎なのだ。


「いやぁ……尊い……」

「……デバッファーなんじゃなかったの?」

「それはそれ、これはこれ。ビジュアルがよくてこそだろ」

「うーん……?」

「それに見ろこのイラストを! 尊いが真っ先に来るだろ?」

「う、うん……?」


 わからない。可愛らしい、綺麗なイラストだとは思うけど、尊いという感情がいまいちわからないのだ。

 けれど、一つ思うことはある。


「……私も、それなりに可愛いと思うんだけどな……」


 いけない、つい口に出してしまった。

 聞かれていないかと空翔の方を見ると、先程までテンションをあげていたスマホではなく、私の方を見ていた。


「……尊」


 それは、確かに自分に向けられた言葉。語彙が些か少なすぎる気がする。というか、多分なにかを間違えている。

 けれど、不思議と悪い気はしなかった。

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キミに魅力は伝わらない 神凪 @Hohoemi

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