第50話 魔術武道大会(4)

 学園内に設置された実技場に設けられている観覧席は、異常な熱気に包まれていた。

 入学当初より何故実技場に観覧席があるの不思議に思っていたのだが、毎年魔術学園で開催される魔術武道大会はこの街の一大イベントのひとつとなっており、街の人達を呼んでのお祭り騒ぎになるからというのが理由らしい。

「小僧!負けたらただじゃおかねぇぞ!」

 階段状に設置された観客席の最前列から聞こえる、ひときわ大きくガラの悪い声はトゥラデルだ。

「トゥラデル、応援に来てくれたんだ。そういえば、イフリートの試練のあと会いに行けなくてゴメン。あの後・・・。」

 イフリートの試練で散々お世話になったトゥラデル。

 常に前衛に立ち、僕達の盾役となった結果、イフリートの魔法によって大怪我を負ったというのに、僕は魔界に行かなければならず、お見舞いも行けていない。

「いいから試合に集中しろ!何があったかなんて皆知ってる!」

 トゥラデルはそう言うと「さっさと行け」と言わんばかりに手を振るう仕草をした。

「負けたら鍛え直してやるからな!」

 後ろから不器用な性格のトゥラデルらしいエールが聞こえた。

「出場者は集まってください。」

 火の魔術の先生が、選手を中央に集めた。

 実技場の真ん中には直径30メートル程の石造りのステージが出来ていた。

 きっと先生方が土の魔法を駆使して削り出したのだろう。クッション性のない石床は使い方によっては武器と化す。戦術を練るときの、ひとつの材料となるだろう。

 1年生の出場者は僕の他は、ルディとアシュタフ、それと僕とは面識の無い術士。

 アシュタフはともかく、あまり好戦的ではないルディが、こういう大会にエントリーしていたとは驚きだ。

 2年生の出場者はふたり。

 会った事の無い先輩ひとりと、テレーズ王女だ。2年生の試合はテレーズ王女が勝利すると見て間違いないだろう。どんな生徒が相手でも、テレーズ王女が負けるとは到底思えない。

 3年生の出場者も、2年生と同じくふたり。

 ふたりとも知らない先輩だが、僕よりも2年も多く魔法について学んでいる。ふたりとも実力者と見て間違いないだろう。

「今年は出場者数が少ないな。」

 ステージに集まった出場者を見てアシュタフが呟いた。

「直前でテレーズ王女のエントリーが判明して、辞退する人が続出したらしいよ。」

 ルディがアシュタフの呟きに答えたが、アシュタフはルディを一瞥すると「お前には話しかけてない」と舌打ちをして言い放った。

「感じ悪いなぁ。」

 ルディが「やれやれ」といった感じのジェスチャーをするが、アシュタフは完全に無視を決め込んでいる。

 入学した時から感じていたが、アシュタフの偉そうな態度は何とかならないものだろうか。2ヶ月間見ないうちに、さらに感じの悪い態度に拍車がかかったように感じる。

「静粛に!」

 先生による試合の説明が始まった。

 予選は一対一。学年別の試合だ。

 魔法、もしくは直接攻撃により相手の体にかけられた魔法障壁を先に破壊した方が勝利となる。

 選手にかけられた魔法障壁は二重構造になっており、外側の魔法障壁を破壊した時点で勝敗が決する。

 決勝は各学年の予選を勝ち上がった生徒によるバトルロイヤル方式だ。

 3人の生徒が同時にステージに上がり、それぞれの魔法障壁を破壊し合う。

 予選と違うところは、相手がふたりいるため自分の意図していないところから攻撃される可能性があるところだ。

 決勝では、多方向に意識を向けられるかどうか、という能力も試されることとなる。

「それでは1年生のみ、試合の抽選を行います。」

 出場者の少ない今年の大会は、2年生と3年生は1試合しか行われない為、その試合が予選の決勝となる。

 僕たちは先生の持っている箱に手を突っ込んで、中にあるボールを取り出した。

 ボールには数字が書いてあり、その数字が同じ者同士が試合をすることとなるのだ。

 僕の数字は「1」、つまり第1試合だ。

 会場に設置された大型の掲示板に、僕の名前が書き出された。相手は誰だ?できればルディとの戦いは避けたい。

 次に書き出されたのはアシュタフ。数字は「2」、つまり第2試合。僕の相手ではない。

 3番目に書き出されたのはルディ。数字は「2」、第2試合ということはアシュタフとの試合だ。

 アシュタフは入学早々、僕とトラブルを起こしている。その時はテレーズ王女のおかげで事なきを得たが、僕に対してあまり良い感情を持ってはいないだろう。

 僕と仲の良いルディに対し、必要以上の攻撃をしないか心配だ。

「ロゼライト君、正々堂々と勝負しよう!」

 僕に声をかけてきたのは、僕と一回戦で戦う術士だった。掲示板にはニクルスと記されている。

 赤銅色の髪と目から火の術士なのだと予想できるが、容姿と加護精霊が一致しないときもあるので、観察は怠れない。

「先生!宜しくお願いします!」

 ニクルスは礼儀正しい生徒のようで、先生や先輩、対戦相手に挨拶をして回っていた。

「ロゼライト、ニクルスは術士クラスの学級委員をやっている実力者だよ。魔法をイメージするのが早いから、油断しないようにね。」

 ルディが僕に耳打ちした。

 有り難い。対戦相手の情報はどんなに小さいことでも知っていて損はない。

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