第49話 魔術武道大会(3)

 今日は登校するなりクラスの皆から質問攻めに合い、いつもと違った意味での疲労感が強い。

 いつも受ける蔑むような眼差しではなく、どちらかというと好意的な感じではあったが、今までは殆ど話したことのないクラスメイトまで話しかけてきたので、気が休まる瞬間が無かったというのが正直なところだ。

 僕はシャルロット王女に借りているロザリオを返すために、生徒会室の扉の前まで来ていた。

 シャルロット王女のお世話のため、何回も訪れたことがあるとはいえ、一般の生徒にとって生徒会室というのは緊張する場所だ。

 僕は深呼吸をしてから、ノックをするために軽く右手を握った。

「ロゼライトさんっ、何してるんですか?」

 今まさにノックをしようとしていた時、階段の方から顔を覗かせて銀髪の少女フローレンス王女が声をかけてきた。

「ちょっとシャルロット王女に用事があってね。フローこそどうしたんだい?」

「別に生徒会室に用事があった訳ではないんですが、ロゼライトさんの姿が見えたので、追って来ちゃいました。」

 フローは小股で僕の方に歩いてくると、上目遣いでそう言った。

「2ヶ月近く会えなかったのに、学園に来た途端に人気者になっちゃって・・・私の事もちゃんとかまって下さいね。」

 フローがいつもは言わないような事を言って、僕に甘えてきた。

 僕の感覚だと、フローとは数日前までペルケ火山で一緒に旅をしていたが、魔界に入らなかったフローにとってはかなり長い間僕と会っておらず寂しい思いをしていたということだろう。

「ゴメンゴメン、そういう訳じゃないんだけど、何かと忙しくて・・・。」

 僕がそう言ってフローに弁解しようとした時、生徒会室の扉が開いた。

「何か生徒会室に御用ですか?」

 扉を開けたのは生徒会書紀のシトリン先輩だ。

「なんだ、ロゼライト君か。今日は何の用?シャルロット王女を呼んだほうがいい?」

 扉の前にいるのが僕だと分かった瞬間に、シトリン先輩の態度が柔らかくなった。

「あの、こんにちは。」

 僕の背中から顔だけ出して挨拶をするフロー。

「あら、フローレンス王女もいらっしゃったのですね。すみません、ご無礼をお許しください。」

 シトリン先輩が正式な礼をして謝罪した。

 僕にとってフローはとても近い存在なので忘れがちだが、このような他生徒の態度を見ると、改めてフローが王族なのだと実感する。

「シトリン。来訪者がいるのであれば、立ち話なんかしてないで中に入ってもらって。」

 奥から聞こえてきたのはシャルロット王女の声だ。

「あら、ロゼライト君いらっしゃい。今日はどんな御用かしら?」

 シャルロット王女の声は気品に満ちていた。どうやら今は王女モードのようだ。

「王女からお借りしているロザリオを、お返ししようかと思いまして。」

 僕は王都が襲撃を受けた時に受け取ったロザリオをショルダーバッグから取り出し、生徒会室の机の上に置いた。

 このロザリオは魔界に潜入した時、グランデールの息の根を止めた光の魔道具でもある。

 シャルロット王女がロザリオを手に取った。

「これは私が持っているよりも、ロゼライト君が持っていたほうが役に立ちそうだから、あなたにあげるわ。」

 そう言ったシャルロット王女は、ロザリオに埋め込んである魔石に光の魔力を込めた。

「しかし、こんなに高価なものを頂くわけには・・・。」

「いいのいいの。ロゼライト君が持っていた方が、私も都合がいいから。」

 よく分からない事を言い、シャルロット王女は魔力の込め終わったロザリオを僕に手渡した。

「そういえばロゼライト君、魔術武道大会は出場するの?さっき出場の申込みを締め切ってたけど。」

 やはりここでも大会の話題が出るのか。

「最近、忙しかったので、大会には出ずに少し休もうかと思ってます。」

 僕は寮やクラスの皆にしたのと同じ理由を、シャルロット王女に告げた。

「それは残念です。ロゼライト君ほどの実力があれば、1年生ながら優勝も夢ではないと思っていたのですが。」

 そんな訳は無いだろう、魔術メインの大会なんだから。

「そうですよね〜。本当は出たかったんですけど残念です。」

 出ないと決めてしまえば気が楽だ。なんとでも言うことはできるのだから。

「あら?おかしいわね。」

 そう言ったのは、シャルロット王女の横でずっと話を聞いていたシトリン先輩。

「シトリン先輩、何がおかしいんですか」

「さっきね、大会の申込用紙を集めて学園に提出したんだけど、ロゼライト君の名前あったわよ。」

「そんなわけ無いですよ。書いてないですし。」

 今まで聞き手に回り、大人しくしていたフローが、突然席を立った。

「わ、わたし、トイレに行ってくるね。」

 妙に挙動不審なフロー。

「まさか、フロー・・・。」

「ほら、受付に間に合わなかったら、かわいそうだな〜って思って。」

 バツが悪そうに答えるフロー。

 コイツは何考えてんだ!

「そういえば、さっきフローレンスが誰かの申込書を提出してたわね。まあ良いじゃない。優勝できるんだもんね?ロゼライト君。」

 フローが生徒会室にの近くにいた理由はこれか?!

「シトリン先輩、出場の取り消しは?」

 僕は急いでシトリン先輩に問う。

「もちろん、締め切りました。」

 シトリン先輩が間髪入れずに満面の笑みで答えた。

 そ、そんな馬鹿な〜。

 どうやら覚悟を決めなければならないようだ。

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