第44話 魔界潜入(9)
光の束が大地を削り、物質を塵と化した。
王都で見た光の魔法とは全く別物の、全てを無へと返す魔法。
これが本気のシャルロット王女なのか?
必死に逃げ惑うグランデール。
しかし、さすがはグレーターデーモンと言うべきか、発動から目標への到達までの時間を殆ど必要としない光の魔法を、グランデールは何とかギリギリで躱しているのだ。
「やっぱり、攻撃が読まれちゃってるのよね。」
シャルロット王女も気付いているようだ。
どういう原理かは分からないが、グランデールはシャルロット王女が光を放つ寸前に何とか身を翻し、直撃を避けているのだ。
一方、グランデールの方も攻めあぐねいているようだ。
シャルロット王女の攻撃を避けるためには、距離を近づけることはできない。しかし、それではグランデールの攻撃もシャルロット王女には届かない。
しかし一見シャルロット王女が優勢に見えるが、実のところはそうではない。
人間の魔力は有限なのだ。
このまま光の魔法を打ち続けていたら、いくらシャルロット王女であっても魔力が渇望してしまうことは明白だ。
事実、シャルロット王女の額には玉のような汗が光り、呼吸も荒くなってきている。
「仕方ない、一気に決めるよ。」
シャルロット王女の全身に魔力が流れる。
これは『王家の秘術』。
光の王家の秘術とは、自らの体を光に変えて瞬間移動する魔法。効果は絶大だが、その分消費魔力は大きい。
僕の横にいたはずのシャルロット王女は、太陽のような輝きを見せた直後、グランデールの真横にその存在を移していた。
「グランデール!覚悟!」
シャルロット王女が両手をかざす。
「馬鹿メ。」
グランデールが嫌らしく口角を上げる。
「マズハ、小僧ノ生命モラッタゾ。」
不規則に進行方向を変えながら、僕に迫るグランデール。光の魔法の直線的な攻撃では捉えきれない。
「魔力ノ枯渇シタ、馬鹿ナ王女ヲ呪エ。」
グランデールが爪を振るう。
――大盾。
――大きく、分厚く、重く。
――何者にも破壊できないほど強い鋼。
僕は予めイメージしておいた大盾を左手に出現させた。
「お、重い。」
盾の下方を時面に突き刺した直後、今までに感じたことのないほど大きな衝撃が全身を襲った。
大盾ごと体が浮き、後方に数メートル弾き飛ばされた。
盾のおかげでそれほどダメージは無い。せいぜい左手が痺れているぐらいだ。
「さあ、第2ラウンドだ。」
僕は右手に魔剣、左手に闇の魔法で想像した剣を構え、前後に足を開いた。
シャルロット王女の援護は期待できない。
魔力が枯渇したとかそういう問題ではなく、光の魔法の特性によるものだと、先程シャルロット王女に伝えられたのだ。
――『分解』
それが光の精霊核の力。
それを証明するほど光の魔法の使い手は多くないが、シャルロット王女は、そう確信していると言っていた。
空気抵抗が無いほどの微細な粒子の束による、超高速の攻撃。これが光の魔法の正体。
そして着弾した粒子は、対象を分子レベルにまで分解・消滅させる。
例えそれが味方であっても・・・。
「王女ガ来ル迄ニ、殺ス。」
グランデールが地面を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。
攻撃は速いが単調だ。グランデールも攻め急いでいるのか?!
僕は数センチ体を反らし爪の攻撃を躱すと、左手の剣を斜めに振った。
グランデールの肩に喰い込む闇の剣。しかし硬い皮膚に阻まれ、それ以上斬り込むことができない。
「ソノヨウナ攻撃デハ、我ノ体ニ傷を付ケルコトハデキナイ。」
闇の剣は紫影鋼、つまり闇の魔力を通しやすい鋼で創造してある。
ならば、剣先に直接魔法を発動できるはず。
――創造する物は。
――『深い傷』
イメージ通り、剣先に触れている皮膚に深い傷が刻まれた。
直後に吹き出す紫色の鮮血。
「何ガ、起コッタ?」
混乱するグランデール。
ちょっと反則技のような気もするけど、これも立派な魔法の応用だ。
僕はグランデールに追い打ちをかけるため、さらに闇の剣を振る。
ダメージの無いはずの僕の攻撃が当たるたびに、吹き出す鮮血。
得体のしれない攻撃に怯むグランデール。
しかしグランデールは僕との間合いを広げるわけにはいかない。間合いを広げれば、シャルロット王女の光の魔法の餌食となるからだ。
「グアアァァアァアアァ!!」
グランデールが苦悶の雄叫びを上げた。
よし!倒せる!
僕は闇の剣を振りかぶった。
しかしその直後に僕を襲ったのは、今まで感じたことのない程の目眩と脱力感。
な、なんだ。立ってられないぞ。
グランデールが口角を上げた。
何をされたんだ?
「魔力ガ尽キタカ。」
グランデールが僕の顎を蹴り上げた。
魔力・・・切れ?
仰向けに倒れた僕を踏みつけ、覆いかぶさるように僕を覗き込むグランデール。
強力な魔法を使うほど、魔力消費も激しい。
僕は何という初歩的なミスを犯してしまったのか。
賢者である故に今まで強力な魔法などと無縁だった僕は、そんな心配をした事が無かったし、経験したことも無かった。
「残念ダッタナ。我ノ勝利ダ。」
最期の力を振り絞り僕は右手の魔剣に炎を宿すが、難なくグランデールに阻止されてしまった。
「オ前ヲ殺シ、我ハ一度、引クトシヨウ。」
グランデールが左手を振りかぶった。
僕の目に映るのは、勝利を確信したグランデールの顔と、薄暗い魔界の空のみ。
そうだ。
笑っちまうほど・・・作戦通りだ。
僕は目を見開いて叫ぶ!
「穿て!」
直後、僕の胸から放たれた光の筋がグランデールの胸部を貫いた。
「ナ、何故?」
教えてやんねーよ!
「穿て!穿て!穿て!穿て!」
僕は魔石に溜め込んだ魔力が尽きるまで、光の魔法を放ち続けた。
いったいどれくらいの間、光の魔法を放ち続けたのだろうか。
「ロゼライト君、もう大丈夫だよ。」
近くに来たシャルロット王女が、僕の顔を覗き込んできた。
シャルロット王女の顔を見て安心したのか、僕は急に耐えられないほどの睡魔に襲われた。
あぁ、意識が遠のく。
目を閉じた僕の胸には、以前シャルロット王女に渡されたロザリオが光っていた。
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