第27話 イフリートの試練(2)
スレート先生の説明の後、僕は王宮に行き、カーネリアン王から正式に仕事の依頼を受けた。
仕事というより困り果てた父親の願いを聞いたというニュアンスが正しいかもしれない。
その内容は、火の精霊の力が暴走しつつあるフローをイフリートが住んでいると言われるペルケ火山に連れていき、イフリートの試練を受けさせる事、という物だった。
以前フローと一緒に迷い込んだ、賢者と魔人の遺跡にあった壁画の一部に、賢者による試練の開放という一文があった事か理由らしい。
「ホントかよ。」
寮に戻ってきた僕は、食堂で夕飯の白身魚のフライを突っつきながら呟いた。
どうも胡散臭い。
いや、カーネリアン王は多分嘘はついていない。胡散臭いのはスレート先生だ。
あの場では何となく「そういう事もあるかも」と思ってしまったが、こんなにうまいタイミングで壁画の解析が進むとも思えない。
とは言っても、他に方法がある訳ではなく言うことを聞くしかないのであるが・・・。
「ロゼライト、ちょっと良いかな?」
神妙な面持ちで話しかけてきたのは、ルディとレースアだ。
いったい何事か?と、僕はふたりに正面に座るように促す。
「ロゼライト、この間は済まなかった!」
急に頭を下げるふたり。
瞬きをひとつ。さらにもう一回。
白身魚の横に添えてあったブロッコリーを一口。
はて?
何も身に覚えがない。
しかしアレだ。
とてもじゃないが「何の事でしょうか?」などと聞ける雰囲気ではない。
「し、仕方がないよ。気にする事じゃない。」
やっちまった。
適当な事を言っちゃったけど、大丈夫なやつかこれ?
「ロゼライトはそうは言うけど、僕は僕が許せない。」
何ですか?
どういう状況ですか?
「私も、今回のことで自分の不甲斐なさを痛感した。」
ちょっと、レースアさんまで何言ってるんですか?
「そうは言うけど、仕方がない事ってあるよ。」
あああ、ヤバいぞヤバいぞ。また適当な受け答えをしてしまった。
「仕方ない?そうか、その一言で済ませられてしまうほど、僕たちの存在は取るに足らない物なのか。」
ルディの落胆具合がとんでもない。
寄り添うように方に手を置くレースアの姿が、痛々しさを助長する。
仕方ない。
僕は覚悟を決めた。
ふたりの怒りに触れるかもしれないが、この事を言おう。
「ごめん、何のことだか全然分からないんだけど。」
・・・。
・・・。
・・・。
ふたりの顔が呆気にとられ、しばらくすると力が抜けていくのが分かった。
「だって、しょうがないじゃないか。謝られる理由が分からないんだから。」
焦る僕、対象的には冷静さを取り戻すふたり。
「ロゼライトは凄いな。やっぱり敵わないよ。」
力なく笑うルディ。
「そうね。でもいつか追いつくよ。」
レースアも同意する。
ふたりの話では、先日のデーモンによる襲撃の際に、一緒に王都に戻らず、僕一人で戻らせたことを気にしていたようだ。
というか、その後色々ありすぎて、すっかり忘れてたよ。
そういえば・・・。
僕はふたりを見た。
実は僕はカーネリアン王から、フローがイフリートの試練を受けに行く仲間の人選を任されていた。
ダメだ。危険すぎるし、第一ふたりは高い授業料を払って勉強している身だ。
イフリートの試練がどんなものかは知らないが、危険を伴うことは容易に予想できるし、何日も学園を休むことになってしまう。
今回は姉王女ふたりの助言通り、聖騎士団から1名とテレーズ王女推薦の冒険者を1名連れて行くのが得策だろう。
しかし、皆で学園を卒業した暁にはふたりに力を貸してほしいと言えるように、良い関係を築いておきたいものだと思う。
聖騎士団の訓練場は、王宮の中にある。
これは王宮の有事の際に、いち早く行動が開始できるようにという事だろう。
今日はシャルロット王女に騎士を誰か紹介して貰う手はずになっている。
僕は王宮の門をくぐると、王宮の西側に回り、聖騎士団の訓練場へと向かった。
「ロゼライト君、こっちこっち。」
訓練場には似ても似つかない明るい声が、僕を呼んでいる。
声のした方向に目をやると、案の定、金髪の少女シャルロット王女が大きく手招きをしていた。
「さて、聖騎士団の諸君!」
芝居がかった言い方で、騎士団へ声をかけるシャルロット王女。
「先日伝えた通り、本日は我が妹フローレンスが挑むイフリートの試練の護衛を任命する。」
何だか僕の方がドキドキしてきたぞ。
「栄えあるフローレンスの護衛は、アクアディール。あなたに任命します。」
アクアディールと呼ばれた女性騎士は、直立した状態で返事をすると、隊列から外れると、シャルロット王女の元に跪いた。
透き通るような水色の目と、風になびく緑短めの髪が特徴な背の高い女性だ。
少し気の強そうなところはありそうだが、真面目そうなその態度は好感が持てた。
「ロゼライト君、アクアディールは水と風の導師よ。両方とも君には無い属性の加護精霊を持っているから、よく教えてもらうと良いわ。」
なるほど、シャルロット王女も良く考えて人を選んでいる。
次に僕が訪れたのは冒険者ギルドだ。
テレーズ王女はギルマスのベイルに伝えてあると言っていたので、とりあえずカウンター越しにベイルへ話しかけた。
「おお、ロゼライトか。テレーズ王女から聞いてるぞ。」
良かった。話は通してあるようだ。
「だがちょっと問題もあってな。」
ベイルの声のトーンが下がった。
「紹介する男の名はトゥラデル。炎の術士だ。端のテーブルに足乗っけて寝てる奴がいるだろ?アイツだ。」
ベイルの視線を追うと、確かにギルドの端の席でテーブルに足を載せている冒険者の姿がある。赤黒い、というよりも殆ど黒の髪した男だ。
「喧嘩っ早い男でな、他の冒険者からも煙たがられている。何故だがテレーズ王女のお気に入りでな。まあ、怖いもの見たさってやつだろうな。」
面倒なのが来たな。
しかし、遠目から見ているだけでは何も解決はしない。
僕は意を決して、トゥラデルに話しかけた。
「こんにちは、僕は・・・。」
そこまで言った僕は、急に視界を塞がれてテーブルに押さえつけられた。
は、速い・・・。
ベイルからの忠告があったから、僕は今最大限の警戒をしてトゥラデルに話しかけた。それが成すすべもなく制されてしまうとは。
「あぁ?誰だお前?」
僕の手をギリギリと締め上げながら問うトゥラデル。
「何をする!お前テレーズ王女から聞いていないのか?!」
そこまで聞くと、トゥラデルは僕の顔を覗き込み、締め上げていた腕の力を緩めた。
「何だよ、嬢ちゃんの言っていた小僧かよ。」
トゥラデルはそれだけ言うと、つまらなそうに元の姿勢に戻り目をつぶりだした。
くそっ、完全にナメられている。
「おい、仕事の内容だけどな。」
「護衛だろ?分かってるよ。出発の日が決まったら言いに来い。俺はだいたいここに居る。」
一筋縄ではいきそうもない。
何でテレーズ王女はこんな奴を推薦してきたんだ。
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