第16話 学園生活が始まる(5)
「え〜、先週伝えた通り、今日は各クラス合同でダンジョンにて課外実習を行います。」
中庭に集められた僕たちは、若い講師からそう伝えられた。
講師の名前はディヤラ。
術士クラスの炎の実技を受け持っている、若めの講師だ。
何でも術のイメージ力に長けていて、多くの魔法を短時間で発動することができるらしい。
先週伝えたと言うが、全く持って記憶がない。
記憶にあることと言ったら、導師と一緒に受けている退屈な座学と、スレートの訳わからない訓練に突き合わされた事ぐらいだ。
中庭に集められたのは、今年入学した全生徒。だいたい30名ぐらいだろうか?
術士と導師が半々ぐらいで、賢者がひとりと、魔人がひとり。
まあ、賢者は僕で、魔人はフローであるが。
そういえば、今日は皆思い思いの武器を持っている。
魔法を増幅される杖やステッキが主流であるが、たまに剣を持っている人もいるようだ。
状況を整理すると、術士や導師は実習について伝えられていたから、準備万端。
それに対して、僕とフローは何も知らされていないから手ぶらで来ている。
この状況からして、犯人は・・・スレートだな。「お前の実技講義中に伝えなきゃならない事だったんじゃないのか?」などと疑ってかかってしまう。
「武器が無い者は、前に準備している装備品から好きなものを持って行くように。」
数人の生徒が準備された装備品を取りに行く。僕もそれに倣い装備品をチェックした。
さすが魔術学園と言うべきか、並べられた武器のほとんどは杖や、ステッキといった魔力を増幅させる物で、僕の好みの物は少なかった。
「剣は二本か。」
一本は、刃渡り1メートルぐらいのロングソード。訓練に使われるようなスタンダードな両刃の直剣だ。
もう一本はナイフと剣の中間ぐらいの長さのショートソード。広めの幅の片刃の剣で、少し反り返っているのが特徴だ。
うーん、どちらにしようか。
ロングソードは使いやすそうだけど、狭い場所では振り回せない。ショートソードは間合いに不安が残る。
迷うところだ・・・。
「ロゼライト・・・。」
どちらにしようか、
「ロゼライトっ!」
弾けるようにディヤラを見た。
「もういいから、2本とも持ってけ。決めてないのはお前だけだ。」
振り向くと、待ちくたびれた顔をしている生徒たちの顔があった。どうやら、随分と迷っていたようだ。
「まったく、恥ずかしいですよ。」
皆の列に戻ると、フローが耳打ちしてきた。
「そういえば、フローは武器どうするんだ?何も持ってないみたいだけれど。」
この学園の性質上、フローだけ特別扱いって事も無いだろうから実習を行うにあたって、何かしらの武器は必要だろう。
「私のは、コレです!」
フローが見せてきたのは、左右の指に付けた4つの指輪。
それぞれの指輪には、色の違う魔石が埋め込まれてきた。
「これは私の魔力を増幅してくれる指輪なんです。」
胸を張って答えるフロー。
「この魔石があれば、少しですが私の魔法の威力も上がります。」
指輪の効果に感心する一方で、僕の中でひとつの疑問が湧き上がってきた。
「ところでフロー。何で今日、そんな指輪をしてきてるんだ?」
「何でって、先週スレート先生が言ってたじゃないですか、今日は実習って、ロゼライトさん忘れ・・・ちゃった・・・。」
人差し指を立てた姿勢で固まるフロー。右のこめかみから汗が一筋流れている。
うん。忘れたのはフローが僕に伝える事の方みたいだね。
「そ、そうですね。何でもってるんだろうなぁ。おしゃれ?」
僕に聞くな!
スレート先生、疑ってすいません。ここに犯人がいました。
「それじゃ、4人のパーティーを組んでもらう。誰でも構わないから、4人1組になってくれ。」
ディヤラ先生が、とんでもない事を言い出した。
初めてのダンジョン。初めての実習。不安もあり、誰しも強い奴と組みたいと思うのは当たり前。
案の定、強そうな奴からパーティーに誘われていく。もちろん皆僕とは目も合わせてくれない。
いや、分かってますよ。
魔力の弱い僕とフローなんかは、誰も誘ってなんかもらえないことは・・・。
「フローレンス王女。是非、私とパーティーを組んで頂けませんか?」
何だと?!
「いや、是非私と!」
「いやいや、私こそフローレンス王女にふさわしい術士です!」
いつの間にやらフローの周りには人だかりができ、僕は徐々に遠くに追いやられていく。
そうか!。
忘れてたけど、フローは王女だから、これを機にお近づきになりたいという人は沢山いるはず。
「馬鹿馬鹿しい。」
僕は舌打ちと共に、そうつぶやいた。最悪、実習は一人でも良い。
魔法など使わなくても、多少のダンジョンであれば攻略できるぐらいの腕はあるつもりだ。
「ロゼライト、荒れてるね。」
聞き覚えがある声が後ろから聞こえた。
振り向くと、予想通りの優しい顔。
「ルディ。それにレースアも。」
「うちのパーティーさ、人数足りないんだよね。戦士系の人、募集してるんだけど入らない?」
ルディの言葉が嬉しかった。
強がっていたとしても、やはり一人は寂しいものだ、
「僕は賢者だけどね。」
「似たようなもんだろ。」
ひどい言い方だ。でも嫌いじゃない。
「今日はフローレンス王女は一緒じゃないの?」
怪訝な顔をしてレースアが尋ねてきた。
僕は顎で人だかりの方を指した。
「あー、なるほどね。」
レースアも僕と同様、呆れ顔だ。
さて、あと一人か。
「じゃあ、術士クラスの中の誰かに声をかけようか。」
ルディがそう言ったと同時に、人だかりの中からフローが顔を出した。
もみくちゃにされたのだろう。髪がボサボサだ。
フローは僕の姿を見つけると、今まで見たことの無いような速度で近づいてきて、僕の鼻先に指を突きつけてきた。
「ロゼライトさん、ひどいです!」
フローの両方の頬が、頬袋に物を詰めたハムスターのように膨らんでいる。
「こういう時に守ってくれないなんて、お世話係失格ですっ!」
「でも、僕よりも強そうな人がたくさん・・・。」
「言い訳なんて聞きません!私はロゼライトさん以外とはパーティーを組むつもりはありませんからね!」
両手を腰に当てて怒るフロー。
「ははははっ!じゃあ4人目は決定だ。」
ルディが大きな声で笑った。
「えっと、この方は・・・。」
我に返ったフローが、顔を真っ赤にして聞いてきた。
ひと悶着あったが、これでパーティーは決まった。気の置けないメンバーだった。
楽しい実習になりそうだ。
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