第4話 唯一の王子【フェルディナン】
フェルディナンは皇帝と皇后の唯一の子として生まれた。恵まれた魔力、知力、体力を持ち、容姿までも優れている王子。フェルディナンが10歳で皇太子になったときにも、後継者としての実力を否定する者など一人もいなかった。
誰もがフェルディナンを称賛し、誰もがフェルディナンに気に入られようと画策する。子供らしくない子供だったフェルディナンには、大人たちの思惑など手に取るように分かった。
そんな、フェルディナンのために婚約者選定のお茶会が行われることになったのは、12歳のときだった。面倒だが、結婚して優秀な次世代を得ることは、王族の義務だ。フェルディナンは仕方なく婚約者候補たちのリストを眺める。
「少し小競り合いを起こしたいな。席次表はあるか?」
「また、そんなことおっしゃって……。令嬢方と会話を楽しんで、気に入った方をお選びになればいいのですよ」
乳兄弟のクレマンが呆れたように言った。それでも、フェルディナンを説得できるとも思っていないのだろう。婚約者候補の名前が書かれた席次表をフェルディナンの前に差し出す。
「それでは本性が分からないだろう? できるだけ、邪魔にならない静かな女がいい」
「邪魔って……」
フェルディナンは優秀だ。誰かに仕事を任せるくらいなら自分でやった方が早い。それならば、婚約者の条件はフェルディナンの邪魔をしない人間だ。
フェルディナンの大人びた性格を考慮してか、候補者には年上が多い。1年や2年早く生まれているからといって、フェルディナンの能力に釣り合うわけではないが、自分の息のかかったものを婚約者に据えるため、貴族たちは必死なのだろう。
そんな使命を持って乗り込んでくる候補者たちにフェルディナンが優しくしてやる義理はない。
「ここに書いた通りに案内しろ」
フェルディナンは、サラサラっとリストを書き換えてクレマンに渡した。
少し動かしただけだが、上座に爵位の低い者を座らせたり、派閥を無視した配置にすれば、騒ぐ者がいるだろう。
「皇太子が自ら席次を決めたと、招待客にさりげなく伝えろ。忘れるなよ」
自分を律することのできる人間なら、明らかにおかしな席に案内されても、皇太子の決定なら従うはずだ。思惑があると感じ取ってくれれば更に良いが、フェルディナンは、そこまでの事を同世代の者に期待していない。
「小競り合いで済めばいいのですが、お茶会どころではなくなるかもしれませんよ?」
「その時は、他国から妃を選んでも構わない」
現皇后が隣国の王女だったことから、フェルディナンの妃は国内から選ぶ事に決まっていた。外交問題がなく落ち着いている事と、外にばかり目がいっていると貴族の不満を貯めないためだ。
それでも、フェルディナンは誰が妻になろうと、誰にも文句を言わせない自信があった。
「側近候補の子息も招待されておりますので、忘れないでくださいよ」
「問題ない。令嬢たちの席しか動かしていないが、それでも秀でる者がいれば分かる。それに、側近は見つからなくても、お前がいるから良い」
「一人で殿下のお相手を続けるのは無理ですよ」
クレマンは満更でもない顔をしながら、文句を言った。フェルディナンはその様子に苦笑する。
「善処しよう」
フェルディナンが別の書類に視線を移すと、クレマンは席次表を持って執務室から出ていった。
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