第2話 その日の部活
「コラー!鏡!ボーッとつっ立ってんじゃねえ!」
「す、すいません!」
七瀬さんに話しかけられなかったショックで部活にも集中できずどこか上の空だった。
まあそんなことをしていると今みたいに先輩に怒鳴り散らかされるんだけどね。
僕の所属している剣道部は人数は多いというわけではないが決して少ないわけではない。
大会に出れる人も限られてくる。
自分も二年になってこの前初めて出場させてもらえたくらいだ。
モタモタしているとあっという間に枠を奪われてしまう。
今はいったん七瀬さんのことは忘れて、練習に集中だ!
道場内に大きな声が響き渡る。
二時間後___
「あ゛あ゛―!きっつ!!」
夏に差し掛かろうとするこの暑い気候の中閉鎖された道場内はほぼサウナ状態だ
休憩中はドアや窓を全開にするが練習中はドアをきっちり閉める
剣道では大きな声を出すことにより、自らを励まし、気勢を増し、恐怖の心をなくし、攻勢に出られる。 相手に驚きや恐れを与えるために常に大きな掛け声を出す。
それがドアを開けているとうるさすぎて外にも響くのか、
何回か学校に苦情が入ったらしい。
そのせいで練習中はドアをきっちり閉めることになっているのだ。
まあそのおかげでサウナ状態で二時間だけでも練習したらもう倒れる寸前。
号令も終わり解散となった自分はヘロヘロになりながら外にある水飲み場に行く。
蛇口を捻り一気に喉に流し込む。
喉がカラカラだったから水が美味しい。ついでに頭にも水ぶっかけて汗流そうかな?
「あれ鏡クンも今上がり? お疲れ様!」
「あ、七瀬さん。お疲れ様です。」
俺が頭に水をぶっかけようか悩んでいると、少し離れたところからジャージ姿の七瀬さんが話しかけてくれた。
また話しかけてもらっちゃった。
部活中だからか、長いストレートの髪が後ろでまとめられてポニーテールになっている
まだ七瀬さんには大きいのか、ジャージが少しダボダボしているように見える。
まあ、俺僕も母さんに大きくなるからって、大きめのジャージを買って貰ってまだ少しダボダボしているので、あまり人のことは言えないんだけどな。
「鏡クンって剣道部だったんだ。武道出来る人ってかっこいいよね。尊敬しちゃうな~」
「あ、ありがとう。七瀬さんも今上がり?えっと……何部なんだっけ?」
「フフ私はバレー部だよ。鏡クンと同じで今上がりだよ!」
「そうなんだ。知らなくてごめん。」
「全然いいよ! 私たち一年の時クラス一緒じゃなかったし、今日初めて話したんだからしょうがないよ」
そういってフフフと笑う七瀬さん。確かに言われてみればそうだな。
「そう言って貰えると助かる。七瀬さんも今上がりって言ったっけ。これから着替え?」
「そうだよ。今日は激しい打ち込みで大変だったよ~。私背が低いからリベロでさ、先生が投げて他の子が打って私が止めるって感じなんだけど。200本くらいやったからもう手が痛くて痛くて。」
「僕も今日打ち込みだったな。ラスト15分だけ模擬試合やったけど。それにしても200ってすごくない?手真っ赤じゃん。そりゃ痛いよ。」
俺たちは水飲み場で部活について話をする。
あれっ? さっきはあんなに緊張したのに案外話しできるぞ? 部活で疲れてるからか?
「あ、そうだ。これあげる」
「塩飴だ!いいの?」
「うん。運動終わりは水分補給と塩分補給が大切だからね。いっぱいあるしお近づきの印ということであげる。」
そういって僕の手の中には小さな塩飴が一つ。おいしそう。
「あっもうこんな時間だ。 そろそろ着替えないと」
「そうだね」
時計を見ると最終下校時刻10分前だった
早く着替えないと生活指導の先生にどやされるなこれは。
「じゃあ、私着替えてくるからまたね!」
「うん。 またね」
七瀬さんはポニーテールの髪を揺らしながら更衣室へと小走りで向かっていった。
さて、僕も戻って着替えないとな。僕は塩飴を舐めながら小走りで教室へと戻っていく。
しょっぱいだがどこかほんのり甘い味がした。
教室に戻るとまだそこそこの生徒がいたが、こんなことはしょっちゅうなので素早く服を着替えた。
その日の夜は可愛いポニーテールの七瀬さんで頭がいっぱいになりふと我に返ると恥ずかしくなり枕に顔を突っ込んで足をバタバタさせていたらお母さんに見つかりあんたなにしてんの?と引き気味の顔で言われた。
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