となりの席のクールで真面目な委員長が、実は自分にベタ惚れだとしたら
末比呂津
第1話
「失礼、ちょっといいかしら?」
教室に到着して、自分の席に座ろうとした瞬間、ふいに凛とした声に呼び止められた。
振り向いて確認するまでもなく、その声の主が誰なのかわかっていた。
「祐天寺さん、どうかしたの?」
そこに立っていたのは、大和撫子という言葉がこれ以上ないくらい似合っている、黒髪ロングの美少女。
彼女は
このクラスの委員長で、品行方正、成績優秀、スポーツ万能、とおよそ人が羨む要素のほとんどを兼ね備えた完璧超人。
その美貌により、男子からの告白が絶えない――と思いきや、生真面目な性格と日頃から男を寄せ付けない刺々しいオーラを発しているせいで、彼女にアプローチする男子は意外に少なく、遠くから眺めて目の保養にしているだけの方が多数派だ。
その代わり女子からの人気はすこぶる高い。
そんな彼女が現在、どういう訳か僕を険しい表情で睨んでいる。
「あなた昨日、自分が持ってきた漫画を机の上に置きっぱなしにしたでしょう。こういうものを学校に持ってくるのは禁止されているのは知っているわよね?」
「……あ」
祐天寺さんから差し出された本を見て、僕はギクッとなる。
弁解すると、これは友達に貸す予定だったもので、決して読む目的で持ってきたのではない。
とはいえ校則違反なのは確かなので、ここは素直に謝っておく。
「いやゴメン。友達に貸してくれって言われて、ダメなのはわかってるけど、渡せるタイミングが学校にいる時だけだったんでつい……」
「そう、わかったわ。今回は見逃してあげるけど、次からは気をつけるように」
「……はあ」
怒られている最中だというのに、学校でも屈指の美少女と話しているという状況に、僕は内心胸が高鳴っていた。
実を言うと僕は、祐天寺さんに対して憧れのような感情を抱いていた。
きっかけは二週間前の席替えで、隣同士の席になったこと。
間近で見る祐天寺さんは、遠くで見るよりさらに凛々しくて聡明な人で、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
とは言え彼女と付き合いたいなどと、大それた考えは一切ない。
自分で言うのもなんだが、僕は勉強、スポーツ、容姿、すべてにおいて平均レベルで、特徴らしい特徴が何一つない凡人の中の凡人。
ただ
祐天寺さんと比べると月とスッポン。
こうして話していても、祐天寺さんは僕のことなどまったく眼中にないのだろう。
彼女は手の届かない高嶺の花なのだから――
~沙織side~
はあぁ……今日も素敵だわ、私の愛しい裕太君。今すぐこっちに来て私を抱きしめて欲しい……。
表向きは毅然とした態度をとりながらも、私は目の前で怒られて萎縮している三鷹裕太君に見惚れていた。
「ねえ、さっきから私の話を聞いているの?」
「あ、ゴメン! ちょっと考えごとをしてて……」
「人が話しているのにその態度はあまり礼儀正しいとは言えないんじゃない?」
「す、すみません……」
あーん、動揺している姿も可愛い! でもあんまりキツイ言い方をすると嫌われちゃうから程々にしなきゃねっ。
私が彼に恋愛感情を抱くきっかけになったのは、二週間前の席替えで隣同士になったこと。
会話はほとんどなかったものの、近くにいるとそれまでは気づかなかった彼の様々な魅力に気づいて、自然と惹かれていった。
今では連休などで会えない日々が続くだけで、恋しくてたまらなくなるくらい、彼に夢中になっていた。夏休みの時なんかは、どれだけ眠れぬ夜を過ごしたことか。
「学校というのは本来、勉学に励む場所なのよ。漫画を読むなとは言わないけど、学校にいる間は気持ちを切り替えて雑念を追い払わないと」
「ああ、そうだよね」
裕太君と学校でデートしたいなぁー(雑念)。
私が作ったお弁当を、「はいアーン」って言って、裕太君に食べさせてあげたーいっ。
でも皆からは真面目な委員長だと思われてる私が、こんなことを考えていると知られたら引かれちゃいそうで、中々想いを打ち明けられないでいる。
いつか本当の私を受け入れて貰えると嬉しいな……。
「まあいいわ。今回は見逃してあげるけど、次に同じことをすれば先生に報告しなきゃいけないからそのつもりでね」
「はい、以後気をつけます……」
うっそぴょーん! 大好きな裕太君にそんな意地悪するワケないじゃない。冗談だからそんな悲しい顔しないで?
裕太君に漫画を返した後で、私は自分の席に戻った。ああ、彼と離れなきゃいけないのが寂しい……。といってもすぐ隣にいるけど。
今日は朝から裕太君と話せて良かった。よーし、彼の為にも今日も一日頑張るぞっ!
「
席に座った瞬間、耳障りな声がして、けばけばしいギャルのような風貌をした女子が現れた。
「朝っぱらからお説教なんてご精が出ますなあ。他にやることないの?」
「鈴木さん、忙しいからあっちへ行って」
「ちょっとちょっとぉ、親友に向かってその態度はないでしょ。もっと愛想良くしてよ」
彼女は“自称”私の親友の
軽薄な見た目と軽薄な性格が特徴の、クラスの問題児。
“自称”を付け足したのは、向こうが一方的に言っているだけで、私は親友と思ったことは一度もないから。
「いつからアナタが私の親友になったのかしら?」
「まーたツンデレじみたこと言ってえ。この前私に消しゴム貸してくれたじゃなーい」
「あなたが勝手に私のペンケースから盗っただけでしょ。しかも返してもらった時には半分に千切れてたし……」
私はアニメキャラクターの形をした消しゴムをいくつか持っているのだが、鈴木さんに使われた後、首無し死体となって戻って来た時は激しいショックを受けた。
その後、向こうが泣いて謝るまで散々説教して、きっちり弁償させたが、この一件が彼女を疎ましく思う一因になっていた。
「っていうか漫画持ってきたくらいで公開説教はやり過ぎなんじゃないの? せっかく貴重な青春時代を過ごしてるんだから、もっと他にやるべきことがあるでしょうに」
「勝手に他人のものを持ち出す自称友達と縁を切るとか?」
「そーじゃなくて、少しは遊ぶことも考えたらってこと」
「くだらないわね。学校にいる時は学業のこと以外は頭から追い出すことにしているの」
裕太君ってどんな女の子が好みなんだろうなぁー?
好きな食べ物は?
好きな音楽は?
好きな色は?
好きなスポーツは?
好きな芸能人は?
あぁ……裕太君のことを考えすぎて頭がいっぱいになっちゃうよぉ……。
「花の女子高生のクセに、好きな男子の一人くらいはいるでしょう?」
「そんなものいるワケないでしょ。男女交際なんて頭がお花畑の人がするものよ」
裕太君だーい好きっ!(お花畑)
となりの席のクールで真面目な委員長が、実は自分にベタ惚れだとしたら 末比呂津 @suehiro
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