伯父ちゃんが、僕に教えてくれた『尊い』こと。

大創 淳

第八回 お題は「尊い」


 ――とうとい。たっとい。どちらとも読める。



 僕は……

 僕の場合はどちらなのだろう……? 暫し物思う刻、春の夜風を感じながら。



 けれども、変わらないことがある。


 いつも、いつの日も、伯父ちゃんが僕に伝えようとしてくれたこと。それは僕に縁する人たちが、あたたかく教えてくれたこと。……命の尊厳。あの日、僕は無意識に……ううん、潜在意識の中で死を選ぼうとしていたのだと思える。僕は自ら剃刀で手首を切った。


 それでも、伯父ちゃんは僕を守ってくれた。


 ……実は、そうなの。伯父ちゃんは、もう亡くなられている人。僕が生まれるずっと前に……会ったことない。生前は……僕に見えている伯父ちゃんの姿は少年のまま。享年十五歳の姿のまま。写真と同じ姿で見えている。……いや、もう見えていた……だ。


 伯父ちゃんは、もう幽霊を卒業する。

 僕に、あたたかな「尊い」という尊い言葉を残して……心に刻んである。



 この間、お祖母ちゃんが僕に教えてくれた。伯父ちゃん……星野ほしの旧一もとかずさんのことを。


 旧一さんは、お祖母ちゃんの息子。お母さんのお兄ちゃん。そして僕と梨花りかの伯父ちゃん。つまり僕と梨花は、旧一さんの姪っ子となる。……しかしながら、旧一さんが見えるのは、家族の中では僕だけで……お話しできるのも僕だけのようなの。


 そのことを、お話してもね、


 梨花も、お母さんも信じてくれなかった……まあ、初めは。でも、お祖母ちゃんは信じてくれた。伯父ちゃんは僕を守ってくれているとも、そう和やかに言ってくれた。


 旧一さんは、いじめを苦に自殺した。


 ……衝撃な事実を聞かされるが、僕が望んだこと。

 グッと堪える。込み上げる涙を。


 自ら死を選んだから幽霊のまま……だったの? 楽を望んで死を選んだのに、その先に進めない苦しみ寂しさ。目の前に、いつもいるのに誰にも気付いてもらえない孤独……


 先の見えない孤独……


 であるなら、僕が気付いてあげられた? ちょっとでも、伯父ちゃんの寂しさを、癒してあげられた……? ううん、してもらってばかりだった。


 いつも、助けてもらってばかりだった。

 何も……何も、してあげられなかった。



 ――込み上げる涙。もうピークで。とても我慢できずに。


 お祖母ちゃんは、そっと包んでくれた。その温かな手で、腕で。クシャッ……と、髪を撫でながら「千佳ちかは本当に優しい子だね、ありがとうね。……あの子の望むこと。一番に尊いことを、してあげたんだよ。千佳だからできた、尊いことをね……」


 と、言ったの。……とても涙が、あたたかかった。



 伯父ちゃんは、もう生まれ変わる来世へ。


 僕は学んだの。伯父ちゃんは、沢山の「尊い」を教えてくれた。僕は伯父ちゃんに尊敬する気持ちを持っている。僕が伯父ちゃんの姪っ子で良かったと。


 そして命の尊厳。――何よりも伯父ちゃんが教えたかったこと。

 かけがえのない重要なこと。重きことを。


 とうといとたっとい、両方の角度から教わった。



 そして、温かなる痛みも。


 あの日、運ばれた病院の……そう、病室で、梨花が思いっ切り僕を引っ叩いた。涙で顔を濡らしながら。いつもは優しい梨花が温かくも、とても怒った。


 それは、それはね、

 伯父ちゃんが、梨花の思いに乗せて伝えたかったことだったと、……心に刻む。


 窓から見える茜色。


 目に染みる様々を。……今宵の執筆とする。尊い命が育まれますようにと、心の中でのビューティフル・レインのその末にある、レインボーに輝く架け橋へと繋がるように。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伯父ちゃんが、僕に教えてくれた『尊い』こと。 大創 淳 @jun-0824

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ