第35話 いざ、王城へ

「誠司さん! これが異国の文化というものですか!」


興奮気味の王女が迫ってきた。

近い! 鼻息がかかるくらいだし。


「異国というか、異世界ですけどね。とにかく王女様、落ち着いてください。」


「ごめんなさい。あまりにも素晴らしいので興奮してしまいました。それから王女ではなく、ミレーユと呼んでくださいね。」


「我々が暮らしていた世界には魔法もスキルもありませんでしたので、こちらの世界とは違った発展をしてきたのだと思います。」


「それでは魔物とはどのように戦っているのですか?」


「そもそも魔物はおりません。魔法の代わりに科学で発展しました。武器も乗り物もこちらのものとは大きく違います。また基本的に平和な世界でした。」


「そうなのですね。ところでお風呂も最高でしたが、このパジャマ?というお洋服はとても肌触りが良く、着心地が良いですね。どちらで入手できるのでしょうか?」


「それは元世界の寝るときに着る衣装です。気に入っていただけているようなので差し上げたいのですが、この部屋にあるものは外に出せない仕様なのです。こちらの生地で似たものが作れるようになったら差し上げますね。近々、専門家が仲間になる予定なので。」


「それは楽しみにしておりますわ。出来れば下着もよろしくお願いしますね。」


王女様は顔を赤くしていた。


「了解です。では、冷めないうちに晩御飯を頂きましょう。」


リビングから食堂に向かい、春菜が準備してくれた晩飯をいただく。


「ミレーユ様。今日はハンバーグというお肉料理にいたしました。お口に合うとよいのですが。」


「では、いただきましょう。」


そういえば、愛莉が大人しいな。

遅れて人見知りが発動してしまったらしい。

カレンさんは未だに慣れずにキョロキョロしている。


「おいしい!! こんなに柔らかいお肉料理は初めてです!」


「私もこんなにおいしいものを食べたのは産まれて初めてだ。あの時、死ななくて良かった。」


ミレーユ様からの元世界の文化について聞かれながら楽しい食事の時間を過ごした。

食後のデザートのプリンにも感動したらしい。

それから客室へ案内した。

まだ話をしたいとせがむミレーユ様を宥め、なんとか寝てもらった。

明日は王との対決が待っているので睡眠不足になるわけにはいかない。


翌朝、なかなかミレーユ様とカレンさんが起きて来ない。

戦闘が続いて精神的にもかなり疲れているのだろう。

寝かせてあげようということになり、俺たちは農園や牧場の世話をしながら待っていた。


「ごめんなさい! 寝過ごしてしまいました。こんなに熟睡できたのは久しぶり。フカフカのお布団がとっても気持ち良くって起きれませんでした。」


「すまん。私までもが寝過ごしてしまって。」


「良いんですよ。ゆっくりしてもらえて良かったです。もうすぐお昼なんでご飯を食べてから王都に向かいましょう。」


ミレーユ様とカレンさんがブランチをしている間に俺は先に外に出た。

ミレーユ様が乗っていた馬車を直すためだ。

さすがに徒歩で王城に向かうわけにはいかないだろう。

以前の俺ならスキル『修復』を付与すればすぐに直るだろうと思っていた。

スキル『修復』は、付与したときの状態を維持するために修復するため、壊れた状態で付与しても壊れたままで維持するだけなのだ。

しかし、先日ダンジョンの宝物庫にあったスキルスクロールで得た魔法を使う。

古代魔法ロストマジック『リカバリー』だ。

リカバリーは新品の状態に戻してくれる魔法なのだ。

また、人に使うとケガや病気をする前の健康状態に戻せるとんでもない魔法だった。

でも、若返りは出来ないよ。

それでリカバリーによって壊れた馬車は綺麗な新品の状態に戻った。

魔物に破壊されてボロボロだったので全く気付かなかったが、流石の王家の馬車だ。

装飾がすごいぞ。


馬車をインベントリに収納し、愛莉によって木に吊るされていた犯人を回収して王都のそばの森に転移した。

馬車をインベントリから出し、犯人を馬車の屋根に括り付けてミレーユ様たちを呼びに行こうとしたところで気付いた。

馬がいないではないか!!

馬車の周囲には居なかったので逃走したか、魔物に食われてしまったのだろう。

馬車を俺が引くわけにもいかないので、街に馬を買いに行くことにした。

しかし、馬を売っている場所を知らない。

牧場かな? そんなところが王都にあったか?

分からないときはギルドに頼ろう。

てなわけで隠密を発動しながらギルドの入口へ転移した。


「久しぶりですね、メリーさん。」


「誠司様ではないですか! 心配していたのですよ。無事で良かったです。。。」


メリーさんは涙目になって俺の無事を喜んでくれた。


「ギルマスを呼びますね。ちょっと待っていてください。」


「あっ! 急いでいるのでごめんなさい。今度、改めてくるのでギルマスにはよろしくお伝えください。メリーさん、馬車を引く馬はどこに売ってますか?」


「北門のそばにある馬車屋で買えますよ。旅に出るのですか?」


「ありがとうございます。詳しい話はまた今度来た時に!」


急いで北門に向かって馬を入手し、馬車を停めておいた森へ転移した。

準備ができたのでミレーユ様を迎えに行く。


「ミレーユ様、準備ができたので王城に向かいましょう。」


「わかりました。これからあの王との対決です。気合を入れていきましょう。」


「カレンさん、御者をお願いできますか? 私たちには馬を操ることができないので。」


「任せてくれ。」


「カレン。あなたは今回の魔物との戦闘で死んだことにします。奴隷ではなく、一般人として今後の人生を生きてください。」


「王女様、ありがとうございます。私には冒険者になることしかできないので冒険者に戻ろうと思います。」


「もう奴隷落ちしないように気を付けるのですよ。」


これでカレンさんの奴隷解放問題は解決した。

馬車を走らせて数分後、街の門に到着した。


「パシフィックフォレスト第2王女ミレーユ・ローマン様の馬車だ。王への謁見のために参った。謁見の準備を頼む。」


ミレーユ様が馬車から顔を出し、「よろしくお願いします。」と声をかけると慌ててそこにいた門番たちが全員敬礼をした。


「了解しました。直ちに王城へ連絡いたします。」


門番の兵士が王城へ向け走っていった。

すでに王女が暗殺されたと思っている王たちは慌てるだろうな。

ゆっくりと城門に向けて馬車を走らす。

門へ着くと王国騎士団長のガモジールと副団長のジョイさんが出迎えた。

馬車から俺たちが降りてくるとガモジールが焦りだした。

ジョイさんは喜んでくれている。


「誠司殿ではないか! 無事で良かった。どこへ行っていたのだ? 探していたのだよ。」


「お久しぶりです、ジョイさん。ダンジョンを攻略していました。」


「5階層までは探していたのだが、まさかさらに先に進んでいたのか?」


「はい。全階層攻略しました。最下層は10階層でしたが。詳しい話は後ほど。今日は王女様の用事が優先なので。」


「了解した。謁見の準備は整っている。そのまま謁見の間へ案内しよう。」


「よろしくお願いします。ミレーユ様、行きましょう。」


ガモジールから殺気を感じた。

俺たちに対するものか、王女に対するものかわからないが用心した方が良いだろう。

2人に念話を飛ばす。


『愛莉、春菜。全力でミレーユ様を守るぞ。春菜はミレーユ様に常時結界を。愛莉はミレーユ様に危害を加えようとしたら容赦なく燃やしてくれ。』


『了解(です)』


謁見の間に入ると通常ではあり得ない数の兵士が取り囲んでいた。

ミレーユ様とカレンさんの顔が強張る。


「ミレーユ様、大丈夫ですよ。俺たちが全力で守りますから。堂々と言いたいことを言って下さい。後のことは俺たちに任せてください。」


ミレーユ様が小さく頷いた。


「ミレーユ王女よ。久しいな。何の御用かな?」


「先日手紙でご連絡した勇者召喚の儀についてです。あなたは隣国の協定で禁止した勇者召喚の儀を行いましたね。これはどういうことでしょうか?」


「何をおっしゃっているのでしょうか? そんなことは行っていませんよ。何を証拠にそのようなことを?」


「ここにいらっしゃる誠司様たちがその犠牲者ではないですか! とぼけるのですか!」


「そんなどこの馬の骨かもわからない若造の世迷言を信じているのですか?」


俺はイラっとしてしまい、殺気を込めて威圧を発動してしまった。


「ひぃぃぃぃ!!!」


周囲に居た兵士たちは腰が抜け、ガタガタ震えている。

ガモジールや魔法師団長サリーさんは耐えたようだ。

王様は、サリーさんの結界で守られた。

王は周囲の異常事態に動揺し、キョロキョロしている。

もちろん味方になってくれたジョイさんには威圧を飛ばしていない。


俺は馬車に転移し、屋根に括りつけていた犯人を連れて戻って王の前に突き出した。


「こいつは王女様を暗殺しようとしていた犯人だ。見覚えあるだろ? 王様の命令で王女様を襲ったと言っているんだが。」


「しらん!! そんなやつしらん!」


「王様。私はあなたの命令で何度も魔物を召喚し、王女様たちを襲わせました。もう拷問は嫌なんです! 罪を認めてください。」


「しらんと言っているだろ!」


「俺たちを無理やり召喚し、奴隷契約で縛り、戦争の道具として使おうとしていたことも認めないというのか?」


俺を奴隷化しようとして渡した奴隷の指輪を王に投げ捨てた。

ジョイさんが「えっ?」って顔をしている。

未だに何も知らされていないのだろう。


「しらん。俺には関係ない!」


「ほう。まだとぼけるんだな。」


威圧を解除し、覇気切り替えた。

兵士たちは気を失い、黄色の水溜まりを作っていた。

流石にガモジールやサリーさんも耐えられず気を失った。

周囲に守ってくれるはずの家来をすべて失った王は怯え始めた。


「忘れていたよ。俺はダンジョンを攻略してダンジョンの管理人に会った。そして伝言を頼まれたんだ。『俺のダンジョンを勝手に管理するな。いい加減にしないとスタンピードを起こして王都を消してちゃうぞ』だそうだ。すぐに一般公開することを勧めるよ。中には数万の魔物が待機していたぞ。じゃあ、ミレーユ様。王へ判決をお願いします。」


「あなたには王を退いてもらいます。そして、召喚した勇者様たちは我が国で保護します。良いですね?」


「・・・・。」


「ちなみに愛莉の魔法1発で王都全てを消し炭にしてしまうこともできるぞ?」


そして、威圧を飛ばす。


「ひぃぃぃぃ! 分かった。言う通りにしよう。命だけは助けてくれ。」


「ということで、王女様。よろしいでしょうか?」


「はい。じゃあ、帰りましょうか。でも、この状況をどうしましょうかね。」


「ちょっとやりすぎちゃいましたかね。宮廷回復師のセーラさんとメイドさんたちを呼んで何とかしてもらいましょう。ジョイさん、よろしくお願いします。」


「了解した。君たちには済まないことをしてしまった。心から謝罪しよう。」


「君たちを敵に回したら大変なことになることがわかったぞ。王女様、注意しましょうね。」


「そうね、カレンさん。誠司様、末永くよろしくお願いします。」


「大切な人たちに何かしない限り大丈夫ですよ。それより、一緒に召喚されたクラスメイト達はまだこちらの生活に慣れていません。どうかよろしくお願いします。」


「わかりました。今日は遅いので一旦休んで、明日他の方々とお話をいたしましょう。」


謁見の間を出たところにいたメイドさんに後始末をお願いして城を出た。

ミレーユ様に宿をとるかと聞いてはみたが、やはり今夜も我が家に泊まるらしい。

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