第34話 隣国の王女に出会った
久しぶりの太陽が眩しい。
そよ風が気持ちいい。
背伸びをし、深呼吸をして地上に戻れた喜びをかみしめた。
「これからどこに向かおうか? とにかく王都から離れる方向に向かってみよう。」
エリアサーチで周囲を確認すると低ランクのゴブリンやオークなどがいる程度で人の気配は無い。
このまま北へ進むと街道に出られるようだ。
街道へ出た後、王都とは逆方向へ向かって進もうと思う。
時間の無駄なので雑魚との戦闘避けるために威圧を飛ばしながら進んだ。
威圧の効果は絶大で、周囲に魔物がいなくなった。
「まもなく街道に出るよ。街道に出たらおやつにしよう。」
「じゃあ、パンケーキを焼いておくわ。先にマイルームに戻っているわね。」
「春菜ちゃん。生クリームたっぷりでよろしく。あとココアが飲みたいわ。」
「俺はアイスコーヒーでよろしく。」
「は~い。」
30分ほど歩くと街道へ着いた。
「あれ? この先で魔物に襲われているキャラバンがあるぞ。放っておくわけにはいかないから助けに行こうか。」
「そうね。見殺しにするのは目覚めが悪いわ。行きましょう。」
身体強化を発動し、現場へ急いだ。
目視で確認できる距離まで近づいたので鑑定してみると生存者は馬車の中に1人、馬車を守って魔物と戦っている人が1人のみ。
他はすでに殺されていた。
魔物はオーク、ゴブリン、ウルフの混成だった。
ん? 森の中に怪しい人影があるぞ。
逃げた人とも考えられるが怪しすぎる。
「愛莉、森に潜んでいるやつがいるから拘束してくれ。逃げた人かもしれないから手荒なことはしないように。」
「わかったわ。できるだけ気を付けるわ。」
本当に大丈夫だろうか。
俺は覇気を発動した。
魔物たちは動きを止め震えている。
「助けに来ました。魔物を殲滅しますので安心してください。」
エクスカリバーを見せてしまうと面倒なことになるかもしれないのでオリハルコンの剣で動かなくなっている魔物の首を切り落として回った。
「ケガはありませんか? 念のため、ハイヒール。」
「ありがとうございます。本当に助かりました。もうダメかと思いました。」
「無事でよかったです。」
すると馬車の中から豪華なドレスを着た少女が現れた。
嫌な予感がする。
これはやってしまったかもしれない。
関わってはいけない貴族のご令嬢様かもしれない。
「助けて頂きありがとうございました。わたくしは隣の国パシフィックフォレストの第2王女ミレーユ・ローマンと申します。こちらの王都に向かう途中、魔物に襲われてしまいました。」
「俺は冒険者の誠司です。もう少し早く駆け付けていれば犠牲者を救えたかもしれません。申し訳ない。」
「いえいえ。犠牲になったものには申し訳ありませんが、仕方ありません。」
「誠司殿。私は護衛をしていたカレンという。すまないが、王女様の護衛を引き継いでもらえないだろうか? 私にはもう時間がないのだ。」
「ケガが治っていなかったのか?」
「いや、違うんだ。私は戦闘奴隷でな。主人が先ほどの戦闘で亡くなってしまったため、10分後には死が訪れるんだ。それが奴隷契約の際に刻まれた呪いなんだ。」
戦闘奴隷は主人を殺す力を持っているため、奴隷契約を結ぶ際に主人を殺さないための呪いをかけられるらしい。
それが主人の死から30分後に死ぬ呪いだ。
「カレンさん、今までありがとうございました。あなたたちの犠牲は無駄にはいたしません。必ず使命を果たします。」
「ちょっと待ってくれ。それは奴隷から解放されれば解除されるのか?」
「たぶん? 事例がないので分からないが。」
「奴隷の刻印をみせてもらえるか? ちょっと調べてみるから。」
*ステータス
名前: カレン
称号: 戦闘奴隷(主人死亡:死の宣告残り10分)、元Cランク冒険者
職業: ナイト
性別: 女
年齢: 18歳
レベル: 20
スキル
剣術、盾術、加速、回避、身体強化
俺は奴隷契約魔法を持っているので契約解除を試してみた。
刻印は消え、ステータス上も戦闘奴隷の称号が消えた。
「これで大丈夫かな?」
「ええ!! 何で奴隷から解放されているのだ? 死ななくても良くなったってことなのか?」
カレンがめちゃくちゃ混乱している。
その間にもう10分経っているのだから助かったことに気付いてほしい。
「あの、王女様。勝手に奴隷から解放してしまったのですが、これって罪になるのでしょうか?」
「私は何も見ておりません。そうですよね、カレンさん。助かって良かったわね。」
「ありがとうございます、王女様。そして、本当にありがとう、誠司殿。」
カレンさんと王女様は抱き合って泣いていた。
「ちょっといいかしら? 森の中にいた怪しいやつを連れてきたわよ。とりあえず、足に剣を突き刺したり、毒を飲ませたりして拷問したら全部はいたわ。ちゃんと治したから安心して。こいつはここの王様にその王女様を暗殺するように指示されて魔物を召喚していたそうよ。」
「だから3度も魔物に襲われたのか! その度に護衛が減り、ついに私だけになってしまった。誠司殿、仲間の仇をとってもよいだろうか?!」
「こいつは証拠になるからまだ生かしておいて連れて行った方が良いのではないか?」
「そうですね。この国の王はどれだけ罪を重ねるつもりなのでしょうか。許せないですわ。私は禁忌とされている異世界勇者召喚の儀の抗議に王都に向かっています。人権を無視し、無理やり異世界から若者を召喚するなんて許せません。私は彼らを助けたいのです。誠司様、どうかわたくしを王都まで護衛していただけませんか?」
「えっと、その犠牲者が私たちです。この世界に私たちの味方になってくれる方がいて安心しました。実は城から逃亡してきたところだったのです。」
「それは大変申し訳ございません。この世界の民を代表しまして謝罪いたします。そして、今後の生活は我が国が責任を持って保証します。一緒に召喚されてしまったお仲間も含めて我が国へ亡命いたしましょう。その前にこの国の王に責任を取ってもらわなければなりません。城に戻ることは嫌でしょうが、どうかよろしくお願いします。」
「わかりました。メビウスから伝言を頼まれていますし、味方の王女が暗殺されてしまったらこちらも困るので全力でお守りします。もし王が何かしてきても今の俺たち3人がいたら王都ですら落とすことも可能でしょうしね。ふふふ。」
「ありがとうございます。日が暮れてきましたね。今夜は野営して、明日王都に入りましょう。」
「愛莉、野営するのは危険な気がするんだ。我が家に誘っても良いかな?」
「今会ったばかりだし、信用できるかわからないわね。どうしようかしら?」
「王女様、カレンさん。ここで野営するのはまた襲われる可能性もあるし危険だと思います。それで我が家に招待しようと思っているのですが、秘密を守っていただけますか?」
「もちろん、命の恩人である誠司様の秘密は厳守いたします。信用いただけないのであれば奴隷契約を交わしても問題ございません。」
「信用しますので奴隷契約は結構です。それでは我が家にご招待します。目を瞑って私の手を握っていただけますか?」
2人が目を瞑ったことを確認し、セキュリティ設定で2人の入室を許可しマイルームに招待した。
「目を開けても良いですよ。私のパーティメンバーを紹介しますね。先ほどから隣にいるが愛莉です。キッチンで料理をしているのが春菜です。春菜、遅くなってごめんね。パンケーキは後で食べるからお客様の分の晩御飯の追加もお願い。」
「わかりました。初めまして、春菜です。お料理と支援役を担当してます。」
「わたくしはパシフィックフォレストの第2王女ミレーユ・ローマンと申します。誠司様に魔物に襲われているところを助けていただきました。それと春菜様も勇者召喚の犠牲者ですよね? この世界の民を代表致しまして謝罪いたします。申し訳ございませんでした。」
「王女様、誤解があるようなので訂正させてください。召喚した王は我々を道具として扱おうとしていました。そこは許せません。しかし、実は私たちの暮らしていた世界はすでに滅んでしまったのです。ですので、召喚によってふたたび生を得た形になっているのです。だから召喚されたことは恨んでいませんので謝罪は結構です。王の言いなりになるつもりは無いですがね。」
「そうですよ。この世界の方々を恨んでいませんよ。それより、もうすぐ晩御飯ができますので先にお風呂へどうぞ。」
「え? お風呂があるのですか?」
「愛莉ちゃん、案内してあげて。そちらの方もご一緒にどうぞ。」
「あっ! すまない。見たこともない家具ばかりで呆然としてしまった。私は王女様の護衛のカレンだ。よろしく頼む。」
「はい。カレンさんもお風呂にどうぞ。愛莉ちゃん、着替えの準備もお願いね。それとお風呂とトイレの使い方も教えてあげて。」
なんか春菜がお母さんみたいになってきたな。
愛莉に連れられて2人は風呂へ向かった。
「すまないな。突然客を連れてきてしまって。これから王女様を王都まで護衛しなければならなくなった。彼女は俺たちを助けにきてくれたそうだ。残されたクラスメイトを彼女に託そうと思う。」
「わかったわ。他の子たちを置いて行くのがずっと心残りだったの。これで安心して旅ができるわね。もちろん私もあなたの世界を見て周る旅について行くわよ。」
「ありがとう。これからもよろしく頼む。」
「何、2人で良い雰囲気になっているのよ。私はもちろん誠司とずっと一緒よ。」
「ありがとう、愛莉。」
「ところで愛莉。森の中で捕まえた怪しい奴はどうした?」
「ああ、あいつなら魔物に食べられないように縛って木に吊るしておいたわ。」
明日の朝、回収すれば良いか。
風呂から上がった2人は風呂に感動し、パジャマと下着に感動し、そして料理に感動していた。
この後のデザートにも感動するんだろうな。
ベットにも感動して寝れなかったりして。
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