第2話 My Room

朝食を食べ、顔を洗い、トイレを済ませ、部屋に戻って着替えをしようとしたところで気付いた。


「通学するわけじゃないからパジャマでもいいんじゃね?」


「通学時間も考えなくていいし、もっとゆっくり寝ていられたんだな。1時間以上早いがログインしてみるかな。もしかすると、三上さんがもう来ているかもしれないし!」


タブレットPCを立ち上げ、アプリを起動するとログインできずメッセージが表示された。


《教室は8時から入場可能です》


仕方ないから寮の方へログインしてみることにした。

こっちは24時間ログイン可能なようだ。

ログインするとすぐに三上さんからメッセージが飛んできた。


『おはよう! ちゃんと起きれたみたいだね。』


『おはよう。びっくりしたよ。三上さんも早いね。』


『左下にクラスメイトってアイコンがあるでしょ? 部屋にログインするとそこに名前が表示されるんだよ。今のところ、私と田中君だけだわ。』


『そうなんだ。教室にログインしようと思ったら早すぎたからこっちに来てみたんだ。三上さんは何をしてたの?』


『部屋の整理よ。ぬいぐるみをこっちの部屋にも移住させていたの。』


『え? ぬいぐるみを移すことができるの?』


『うん。タブレットのカメラで写真を撮るのよ。それから下のアイテム転送のボタンを押して撮った写真を選択すれば反映されるわ。』


『そんなこともできたんだね。じゃあ、一旦ログアウトして写真撮りまくってくるよ!』


『授業に遅刻しないようにね!』


『うん。わかった。じゃあ、また教室で。』


俺はログアウトして自室にあるお気に入りのアイテムたちの写真を撮りまくった。

気付くともう5分前の8:25になっていた。

慌てて教室にログインした。


『遅刻ギリギリよ。時間忘れて写真撮ってたわね?』


『その通りだから言い訳できないわ。心配してくれていたのにごめんなさい。』


『わかればいいのよ。気を付けないとダメよ。』


母ちゃんか!

突っ込みたくなる気持ちをグッと抑えた。


「おはよう。みんなちゃんと登校しているかな? 寝坊した人は居ないようね。」


加藤先生が登場した。


「1時間目の授業は化学です。机の中に教科書があるから出してちょうだい。」


突然ログアウトする生徒が居たが、通信障害や家族からの妨害等で落ちてしまうのは仕方ない。

オンライン授業のあるあるだろう。

しかし、このシステムは厳密には通信手段を使っていないので通信障害はない。

よって理由は後者だろうな。

俺は、時々ダイレクトメッセージで三上さんと会話をしながら楽しく授業を受けた。

あっという間に1日が終わった。


『田中君はこれから何か用事あるの?』


『ちょっと買い物に行こうと思ってる。それにバイトも探さないと。三上さんも一緒に行く?』


『ごめんなさい。リアルでのお出かけは勘弁してください。』


『冗談だよ。でも、いつかデートしてね。』


『もう! 揶揄わないでよ。いってらっしゃい。』


着替えて街にくり出した。

寮のマイルームの装飾品やおやつを買う? いや撮るためだ。

食糧やお菓子をバシバシ写真に収めていった。

ふと店先に停まっていたカッコイイマウンテンバイクが目に着いたので、それも撮っておいた。

あとでタブレットの壁紙にしようと思う。

スーパーの食料品を眺めているとあれもこれも欲しくなり、次々と写真に撮った。

缶詰はもちろん、カップラーメンや乾物などの保存食も忘れていない。

飲み物の写真もいっぱい撮った。

するといつの間にかに店員さんにマークされていることに気付いた。

店内の商品を撮りまくっていたらそりゃ怪しいよね。

御免なさいと言って、走って逃げました。

通報だけは勘弁してください。

そのまま近くの服屋に逃げ込んだ。

そして、学習した俺は怪しまれる前に店員さんに声をかけた。


「すいません。学校のレポートの素材に使いたいので写真を撮らせてもらっても良いですか?」


「ええ? まあいいですが、お客様の邪魔にならないようにお願いしますね。」


「ご協力感謝します!」


これで遠慮なく写真が撮れる。

撮るのはタダなので普段買いたくても買えなかった洋服たちをどんどん写真に収めていった。

下着も靴下も同様だ。

三上さんも欲しいかな?と思い、女性ものも写真に撮った。

流石に下着は変な目でみられそうなので遠くからズームでバレないように撮りましたけどね。

すごくドキドキしました。

この調子でドラックストアやホームセンターにもお願いして写真に収めていった。

特に暇が出来たら行ってみたかったキャンプの用品は重点的に撮った。

三上さんはインドア派だから話に乗ってこないかもしれないけど。

でも、一緒にキャンプデートもいいよね。

あっ! いつの間にかに三上さんのことばかり考えていることに気付いた。

まだ会って2日しか経っていないけど、俺にとって三上さんは大切な人になってしまったようだ。

俺にとっては初恋かもしれない。

急いで家に帰り、晩飯を食べ風呂に入ってから自室に戻りマイルームを起動した。


『お帰りなさい。いろんな写真撮れた?』


『うん、いっぱい撮ってきたよ。でも、バイト探すのは忘れたけどね。』


『そうなんだ。私はこのお部屋の機能をいろいろ調べていたの。新しい機能を見つけたわ。そっちに行ってもいいかしら?』


『え? 部屋に来れるの?』


『試してないからわからないけど、そういう機能があるみたい。じゃあ、行ってみるわね。』


パジャマ姿の三上さんが現れた。


「おお! 玄関から来るんじゃないのか。びっくりした。」


「そういえばそうね。でも来れたみたいで良かったわ。」


「かわいいパジャマだね。」


「あっ! こんな格好でごめんなさい! 着替えてくるわね。」


「そのままで構わないよ。かわいいから全然大丈夫。」


「そう? じゃあ、このままで。」


「あれから写真撮ってたらあれもこれもってなって、すごい枚数の写真撮っちゃったんだ。これから整理しようと思ってね。写真リスト見て。」


「ほんと凄い数ね。店が開けるくらいあるんじゃない?」


「ふふ。そうだね。これ全部買ったらいくらになるのかな? 写真だから良いけど本当に買ってたらものすごい金額になっていただろうね。」


「お店の人が良く写真撮らせてくれたね?」


「学校のレポートの資料素材って言ったら撮らせてくれたよ。ちょっと嘘ついちゃった。」


「そのくらいの嘘なら許容範囲じゃない?」


「そうだよね。」


それから三上さんとの楽しい時間を過ごし、夜も更けてきたのでログアウトして寝ることにした。


それから1カ月、ちゃんと毎日授業に参加し(三上さんとの楽しい時間)、放課後は写真撮影(アイテム収拾)、夜はマイルームで三上さんとお部屋デートの日々を過ごした。

パソコンやゲームのことをいろいろ教えてもらったので、現代の若者レベルには成長できたと思う。

さらにタブレット内に元々インストールしてあったMMORPGのゲームも三上さんとパーティを組んで遊んだ。

俺は剣士、三上さんは魔法使いだった。


また、俺の移動手段である自転車で回れる範囲の店は全て網羅し、商品全ての撮影が完了したと思う。

写真はもちろんマイルームには展開できないものが大多数だが、コンプリートすることに意味があるので気にしない。

昔から凝り性で始めると全てコンプリートしないと気持ちが悪くなる。

小学高学年のころ課金ゲームにはまって、恐ろしい額の請求に震えた思い出がある。

そのおかげで親からスマホからゲームのできないガラ携に格下げされたのだ。

それで現役高校生とは思えないレベルに仕上がってしまい、入学初日から三上さんのお世話になってしまったわけだ。

今は三上さんのおかげでグレードアップしているが。

そして、三上さんのおかげで予想していた以上に楽しい高校生活を送れている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る