アトラス山に、今日も、夕日が沈む

ヘパ

第1話 アトラス山に、今日も、夕日が沈む

 オリンピアの競技きょうぎ大会で。俺がいちばん、不安なのは、り者レースだ。


変なのが、あたりませんように……。と、いのりながら、メモを開いた。


かかれていた言葉は、『尊い〇〇』。



 なにー!?『尊い〇〇』ってー!?



 不意打ちくらって、思考停止してしまった。


ライバルが、どんどん、追い抜かしていく。



 「ヘパ、走れー!」


応援席で叫んでる、アポロンの声で、我に返った。


あれは……尊いバディ!



 「アポロンちゃーん!」って、俺は、頼みにいった。


「来てー!」


「え、俺!?」


そのまま、ゴールに向かって、ダッシュした。



 借り者レースの順位が、まぁまぁだったから。


チーム・ノーザンクロスは、ベスト5に入れた。


ノーザンクロスって、チームの名前は、エンジニアメンバーでつくった、時空移動船じくういどうせんからとった。



 ちなみに、優勝したのは、今年も、父さんたちのチーム・オリンポス。


ポセイドン伯父おじさんにくわえて、ハデス伯父さんと、クロウまでいるチームだから、超つよいんだよね。



 なんで、こんな話をしてるかって。


オリンピア競技大会のことが、リモート会議の時、話題になったから。


『あれ?あの時。なんで、俺、ヘパに、つれてかれたんだっけ?』って、アポロンちゃんの一言が、きっかけだった。


「俺が引いたのが、『尊い○○』って、メモだったからだよ。」


『は?それ、俺が尊いってこと?うげっ!ヘパに、そんなこと思われてるのは、きもち悪いわ!』


「えー!?」


『ヘパちゃんが言う尊いって、大切って意味でしょ、アポロンちゃん。』って、モニターごしから、プロちゃんが、フォローを入れてくれた。


パソコンのスクリーンにうつる、ダイダロス先生が言う。


『競技場の、ど真ん中で、尊い○○もってこい!って、言われても、困っちゃうよねー。俺も、プロメテウス、つれてくかも。俺の尊いバディです!って。』



 そんな話をしてた時、リビングに、ポセイドン伯父さんが、入ってきた。


「たのしそうに、なに話してるん?」って、伯父さんが、俺の隣に座った。



 ポセイドン伯父さんも、たしか。『尊い○○』って、メモに、あたって。トリトンを、つれて行ってたっけ。



 ずっと、不思議なんだけど。伯父さんは、トリトンが、探偵たんていやってること、なにも言わないのかな……。


危ないことに、首をつっこむ時あるし。父さんだったら、絶対に、許さないよ。


魔法つかうのも、『あぶない!』って。俺が魔法をつかえないように、呪いを、かけてたくらいなんだから……。



 「ねぇ、伯父さん。トリトンが探偵やってるの、なんとも思わないの?」


「心配だよ。」って、伯父さんは、即答だった。


「でも、トリトンにも、考えがあるわけだし。そこは、尊重したい。トリトンの生き方にまで、干渉するのは、違うと思うから。」



 それを聞いた途端、はぁ……って、つい、ため息をついちゃった。



「父さんが、伯父さんみたいな感じだったら、よかったのに。父さんってば、俺が、ペガサスに乘る時でさえ、心配そうな顔するんだよ。まるで、俺が落馬らくばするみたいに。しないよ!」


「ははは!しゃーないわ!ヘパイストスは、ゼウスの最初の男の子やからな!それだけ、大事なんだよ、ゼウスは。もちろん、俺にとっても、尊いおいっ子やで。俺の、かけがえのない家族や。」



 窓から、差し込んでくる夕日が、まぶしい。


アトラス山に、もうすぐ、夕日が沈む。



 『みんな、おつかれー!そろそろ、おわりましょう!』


ダイちゃんが、リモート会議を、しめようとした時。


『………了解りょうかい。』って、アポロンちゃんの声が、返ってくるまでに、少し、ラグがあった。


「なに、今の……?」って、俺が言った直後。


アポロンちゃんのマイクが、アイテムをゲットした音を、ひろった。


『あ、やべ!』って、アポロンちゃんが、あせった時、カメラに、ゲーム機が映る。


『おい!』ダイちゃんが、つっこむ。


『リモートなのを、いいことに!ミュートして、かくれて、ゲームやってんじゃねぇ!』


『ずっと?』プロちゃんが、きく。


『さすがに、違うよ!オリンピアの話から!』


……って、はぁー!?


「自分から、話、ふってきたのにー!?」



 ゲームしてたことを、さんざん、いじられたアポロンちゃんは、最終的に。


『ヘパイストスの話が、なげーんだよ!俺を退屈たいくつさせた、ヘパが悪い!』



 プロちゃんも、ダイちゃんも、もう、ビデオ通話を、きりたかったらしく。


『うん!そういうことで!』


『おつかれー!明日、昼、出勤の人、よろしくね!』


って、ぷつん!って、きられた。



 なに、この終わり方!?えー!?俺が、悪いの!?



 そうして、今日も、アトラス山に、夕日が沈んだ。

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