第二話、あり得ない
一拍、時を置いて二の句を紡ぎ出す。
「まあ、そうだね。あたしが君に告白するなんて天地がひっくり返ってもないわ。だって家族だもんね、君とは。というかさ。その話は、ひとまず置いておいてさ」
そっか。
だよな。
と残念な気持ちと当たり前という気持ちが入り交じった想いを隠してから応える。
「なに?」
彼女は満面の笑みになって、続ける。
「新しい作品が出来たんだ。君に一番に見て欲しくてさ。これよ」
と鞄の中からタブレットを取り出す。
起動ののち、画面には彼女が描いた新作イラストが表示される。
格好いい男のダンディズムが、十全に表現された彼女が描き出す作品……、世界。
「ほう。これは、また凄いね。なんというか、君らしいというか」
彼女の作品は上手いのはもちろんなのだが、その上で華がある。
いつも思う事なのだが、彼女が描く世界は、僕にとっては尊い。
彼女自身を好きであるからこそ余計にも、尊いと思ってしまう。
「この作品のね、モデルは君なんだよ」
「へっ?」
平凡でヘタレな僕とは似ても似つかないイラスト男を見て素っ頓狂な声をあげる。
信じられない事をしれっという彼女。
「なんてね。ウソウソ。君が、こんなに格好いいわけないじゃん。てか、100歩譲って、これが君の美化だとしてもだ。君はダンディというよりもショタ系だよ」
アハハ。
と笑う。
あご髭でも生えてきて難事件に挑む探偵にでもなったかのようあごを撫でる彼女。
そうなんだ。これこそが彼女の素行で、ただ一つの大きな問題。
彼女は、しれっとウソをつく癖があり、そのウソに、いつも振り回されるのが僕なんだ。しかもドキッとさせられるようなウソをつくのが上手い。だから僕の心臓は、かなり鍛えられている。今の話も、また、そのウソの一つであったわけだ。
「そうだ」
「なに?」
「今度、君をモデルにして、描いてあげようか?」
僕は眉尻を下げて、両口角も下げる。
「それもウソでしょ?」
と……。
アハハ。
とまた大笑いの彼女。
そうだ。
僕と彼女の関係は、これでいいんだ。
気軽に付き合っているからこそ上手くいくんだ。友達を超えた存在として時を共有するからこそ上手くいくんだ。家族として一緒にいるから。少しだけ寂しい気もするけど、僕は、この関係が好きだ。うん。そうだ。これでいいと言い聞かせる。
その時は、強く、そう思った。でも。
彼女が数日後、珍しく僕が一人暮らしをする部屋を尋ねてきた。
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