第十四・五章 追憶

電力の漏れ出る感覚の中で、この地で実験を初めて間もない頃に不可思議な男と出会ったことを思い出していた。何もない暗闇でも光り輝くような男だった。

「僕は君に宿った力の一片を知る者だ。君が望むのであればその使い方を教えよう。」

 私に宿った力。この人を喰って力を得るという性質のことか。

「無用だ。」

 それで用件は済んだと思ったので作業に戻るつもりだった。このヒトではない何かと話すことがそれ以上あると思えなかった。

「君のような存在にとって、自らの力に関する情報は力そのものよりも重要かと思っていたのだが。どうやら僕もまだまだ君たち人間に対する理解が足りなかったようだ。」

 求めてもいないのに色々としゃべる何かだ。耳は不要な情報まで拾ってその処理に脳のリソース割当を要求する。やはり人類は言葉などという不完全なコミュニケーションに頼っているべきではない。しかし今はそれしか手段がない以上、相手の様式に従って返答せざるを得ない。

「そのようなものは私の理想の目指すところではない。今ある力は使わせてもらうがこの力を強めることには意味はない。」

 それで我々のこの世でたった一度きりのコミュニケーションは終了した。気付けばその何かは消え失せており、痕跡すら残っていなかった。私もそれを些事と判断し、忘却の彼方へと追いやった。今思い出しても取るに足らない、自身の方向性を再確認しただけの出来事だ。

 何故今それを思い出したのか。あの時力について知っておくべきだったのか?いや、違う。人類は人類の力でもって次の段階に進まねばならない。もはや人類から逸脱した我が存在であるが故にそこだけは守らねばならない!このような走馬灯まやかしを見ている場合ではない。私にはまだやるべきことがある!

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