第五章 痕跡

「永山サン、頼まれてたやつ解析できましたよ。やっぱり法則性ありますね、これ。」

 ヘッドセットの向こうから須磨の声が聞こえる。彼女はイリーガルかつオペレーターのため支部に来ることはあまりないが、いつも通信越しに隊を導く重要な仲間だ。

「やはり、か。ありがとう須磨君。それで、次の発生場所の検討はつくかね?」

 同じくヘッドセットに向かって永山が話しかける。有益な情報を得られそうな気配があり、相手が通信の向こうと知りながらもこころなしか身を乗り出すような体勢になる。

「さすがに一つには絞れないですけど、候補はあります。あたしの勘ではここが一番怪しいですね。」

 永山が見ている画面の地図上にいくつかの赤い点が浮かぶ。そしてその内の一つが巨大化かつ点滅して最重要ポイントを知らせる。

「よし、この地図の箇所を中心に監視を強化する。須磨君は日常業務に戻ってくれて構わない。」

 そう言って永山は返事を待たずに通信を切る。イリーガルである彼女には本来の生活というものがある。それを不必要に邪魔するのは気が咎めた。

「私もウェブ経由で、ってあぁ。切られちゃったか。」

 通信の切れたマイクにむかって独り言を言う形になってしまった。須磨からしてみれば比較的自由のきく自分の日常生活など気にせずに仕事を振ってほしいのだが、永山にはそこのところがいまいち伝わっていないようだ。

「やっぱりイリーガルは頼りづらいのかなぁ……」

 その独り言も宙に吸い込まれ、やがて消えた。


 会議室に永山隊の面々が集う。須磨からの情報でM.O.B.の出現パターンが絞り込めたための緊急作戦会議だった。永山は何度もこの作戦は被害を未然に食い止めるためという点を強調していた。

「以上が今回の作戦の概要だ。複数地点を回る必要があるため隊を2つに分ける。只野君は僕と来てくれ。天野君は友氏君を連れてBルートを担当。」

 永山の作戦説明に納得のいかない天野が割り込む。組分けが納得いかないようで友氏を指差しながら立ち上がる。

「ちょっと待ってください支部長!私またこいつのお守りですか?」

 友氏の方も声には出さないがあまり気が進まないといった顔をしている。足を引っ張っているつもりはないが、求められている動きができていないという引け目はある。

「天野君はエージェントとしての経歴も長く、その上若くて柔軟性がある。イリーガルの人と積極的に組んで戦略の幅を広げてもらいたい。それに……」

 永山が声を落としながら天野に近づき他の人には聞こえないよう耳元で伝える。どうやらこちらが本題のようだ。

「さすがに彼に只野君の制御は任せられない。君も彼とはやりづらいだろう。我慢してくれ。」

 それを言われると天野も反論の余地はない。渋々ながら頷く。

「……分かりました。できるだけ足を引っ張らないでよね。」

 後半は明確に友氏に向けて言葉を放つ。ある意味で不安は的中したが友氏としては従う他ない。

「今回は悪がどこに出るかわからない。だから正義の炎は別々に行動してどこに悪が現れてもすぐさま焼き尽くせるようにするというわけだな。了解した。」

 只野の独自理解に全員が思考停止する中、永山がなんとか次へと話を進める。

「えーと……ま、まぁそういったところだ。あと、定時連絡は欠かさないように。緊急時に限り須磨君へも連絡を入れてほしい。では作戦開始だ。」

 3人がめいめいに頷き、支部から出ていく。永山と只野、天野と友氏の二手に分かれ、夜の闇へと消えていった。

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