第三章 コミュニケーション
「正義の炎を受けよッ!」
只野の怒号がこだまする。その両手は灼熱の炎を帯び、今まさに雷槌を射出しようとする中年男の右腕を焼き砕く。
「アンタいちいち叫ばないと攻撃できないの?」
只野の胴の横すれすれにプラズマカノンを放った天野が同僚の攻撃方法に疑問を投げかける。
「まだです! 気を抜かないで!」
前線で敵の攻撃を引き付けていた友氏から悲痛な声。互いの体を吹き飛ばし合うことでプラズマカノンを避けたM.O.B.2人が左右から天野を挟撃する。攻撃に意識を割いていたため反応が遅れ回避が間に合わない。
「ふむ、彼我の連携力にはかなりの差があるねぇ……これは問題だよ。」
後方で控えていた永山が機械の豪腕を動かし、中年男の方をコンクリの壁に叩きつける。天野への攻撃はその髪の先端を焼くだけで虚空へと引きずられ消失する。中年男の手から最後の紫電が散り、倒れた男が完全に動きを停止する。
「ジャスティス、もう一人は頼んだよ。」
攻撃を終えて無防備になった永山は振り向きもせず背後に声をかける。背後に迫るは標的を天野から永山に切り替えた若い女。その背中に雷を帯びた警棒を突き立てんとして力を込める。
「最後は正義が勝つのだ。受けよ正義の拳ィ!」
女のさらに背後から疾走してきた只野の炎を帯びた拳が炸裂する。背骨の折れる音に少し遅れて皮膚が焼ける臭いが辺りに広がる。体勢を崩した女に向かってさらに追い打ちの拳が頭蓋をそのまま地面に叩きつける。頭蓋の砕ける音の後、その中身が地面へと広がっていく。
「もう十分だ。只野君は勝手に捕食しないように。その2つも分析に回すからね。」
永山の指揮によって勝利を収めたものの、UGNはかなりの被害を負っていた。特に《リザレクト》を繰り返した友氏と考えもなしにエフェクトを使っている只野はかなり侵食が進んでいる。永山が止めなければ今殺したばかりのジャームを口にしていただろう。
「一度支部に戻ろう。友氏君、君もだ。君は傷つき過ぎている。全てを自分で受けようとする必要はない。確かに君は前衛だがそれは全ての攻撃を受けなければいけないという意味ではない。」
友氏が痛みをこらえるような顔で永山を見る。まだ流れる血も止まらぬような僅かな時間だが永山の戦況分析は完了していた。
「天野君もだ。只野君が射線に入っているにも関わらずプラズマカノンを放った。あれはもうワンテンポ待って射線が空いてからでもよかったはずだ。君は自分の力を発揮することに焦りがある。」
「でも支部長!」
天野の抗議を手で制して永山はさらに続ける。
「そして最後に只野君。君はなにもかもめちゃくちゃだ。独断専行が目立つし不必要に力も使いすぎている。正直、君が敵なのか味方なのか判別に苦しむ。」
「支部長は私の正義を疑うと?」
指摘を受けた只野が殺意を持った戦闘態勢を取って永山の方を振り向く。その両手には再び灼熱の炎が宿ろうとしている。
「そうじゃない。実際最後は君の正義の力が悪を倒しただろう。しかしだ、正義の味方というものはそれだけじゃない。仲間とうまくやっていく能力やここぞという時のために力を温存する方法も身につけなればいけないという話なんだ。」
「ふむ、支部長の意見にも一理あるな。」
正義という言葉に弱い只野は簡単に丸め込まれる。この性質を利用することで永山はなんとか只野を制御している。そのせいで只野の面倒を見させられているという向きもある。
「さて、各自への細かい注意点は戻ってからにしよう。あぁ僕だ。そうだ、作戦終了。ゲートを開いてくれ。」
後半は首元に埋め込まれた通信装置から支部へ向かって喋る。通話の向こうでオペレータがディメンションゲートを開いているのだろう。
「敵性ジャーム二体の死体も持って帰る。分析に回してくれ。おそらく以前と同じタイプだ。あとは清掃局の方にも連絡を。無人の建物とはいえ血の跡が多過ぎる。」
そこまで喋ると永山は通信を終了、開いたゲートへと歩を進める。その後ろ姿には戦闘を終えた安堵と今後を憂う不安が両肩に均等に載っている。
「帰還後休憩の後ミーティングを行う。全員1時間後に会議室に集合。」
一度振り返ってそう言うと永山はゲートの中へと消えていく。その後ろを小言がまだ続くのかとうへぇといった顔の天野、ふむふむと完全にさっきの殺意をなかったことにした只野が続く。そして最後に残された友氏が「僕の、命は……」と呟いた声は誰にも届かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます