第4話 ドキドキ☆転校生はだーれだ?(推しです!) その2

 案の定、というか、予定調和、というか、なんというか。

 休み時間になると、メテオくんの周りには、好奇心の強いクラスメイト達が集まり。

 座学の授業では、外国どころか並行世界からやってきたっていうのに、先生の質問にズバズバ答え。

 体育の授業では、プロ並みの運動神経を見せていた。


「す、すごい……!なにあの男子……!」


 スポーツ万能少女なあおいちゃんは、あんぐりと口を開けて、華麗にゴールを決めたメテオくんを見ていた。

 ちなみに、種目はサッカーである。


「なんかすごい転校生来ちゃったね!?もはやアイドルじゃん!」


 黄色い声を上げる女子たちと、メテオくんに駆け寄る男子たちの熱気で、ことねちゃんも心なしか興奮しているようだ。


「そうだね」


 ……、まぁ、メテオくんだからな。アレ、メテオくんだからな……。


「なに、あかりん、めっちゃクールじゃん!?」

「やめなよ、ことね。どうせ、あかりはメテオリト一筋なんだから。天手くんみたいな人を好きになればいいのに、もったいないよね」


 だから、その天手くんが、メテオくんなんだってば!

 あれは、メテオくんが必死に猫被って愛想振りまいてる姿なんだってば!

 ……、うん。言わないけどね。必殺技を無理矢理変えちゃった奴が言うことじゃないけど、メテオくんにはアニメ通り、ここでちゃんと青春して欲しいから、絶対言わないけどね。


「オリト!サッカー部入らねぇ?」

「いや、ここは野球だろ!」

「バスケ部もいいぞ!」

「テニス部は?」


 そうこうしているうちに、メテオくん、運動部の男子達にばっちり取り囲まれて、バリバリ勧誘されていた。

 ちょっと困ったような、だけど柔らかい王子様スマイルを浮かべて、メテオくんは彼らをなだめる。


「ごめんね。部活とかは、ちょっと……」

「あのさ、オリト!」


 あぁ、来た来た。

 これは、アニメで見たことのある展開だ。


「フットサルの同好会、これから立ち上げようと思うんだけど、メンバーが足りないんだ。もしよかったら、入ってくれないか?」


 クラスメイトの、日向カケルくんである。

 かっこよくもなく、際立って成績優秀なわけでもなく、『マジカル☆ステラ』では一般生徒枠の地味なキャラだ。

 それなのに、なんで覚えてるかって?

 そりゃ、メテオくんが、押しに負けてフットサル同好会に入る羽目になるからである。

 ついでに、日向くんともめちゃくちゃ仲良くなるからである。

 ぶっちゃけ、その手の話が好きなお姉様方が飛び付くぐらいには。

 そして、もちろん私も大好きだ。というか、メテオくんが幸せなら、なんだっていい。


「えっと……、それも、ごめん」

「そっかぁ。でも、気が変わったら言ってくれよな!いつでも待ってるから!」

「うん。ありがとう」


 相変わらず、完璧な王子様スマイル。

 多分、内心は「誰がこんな辺境の世界の運動なんか好き好んでやるかよ!」なんて愚痴っているんだろうな。実際、アニメではそういうモノローグが付いてたし。

 そういうところもとても好きだし、後でズブズブに絆されていくところはもっと好きなんだけどね!


 

 ……、というわけで、放課後である。

 放課後も、クラスの皆がメテオくんのところに集い、懲りずに部活に誘おうとしたり、遊びに誘おうとしたりしていた。

 ものすごい人気だ。さすがメテオくん。

 アニメで観ていたから普通に知っていたけれど、こうして現実のものとして目の前で見ていると、ダイレクトにそのすごさを実感する。

 推しが人気なのは、推しているこちらとしても鼻が高い。

 その調子で、消失フラグもへし折って欲しい。

 メテオくんがダメでも私が絶対へし折る。そして、どうか幸せな未来を迎えてくれ。全私からのお願いだ。


「さぁ、帰ろう」


 ちなみに、アニメでもそうだったけど、あおいちゃんは女子サッカー部で、ことねちゃんは料理部、あかりちゃん(中身私だけど)は園芸部だ。

 今日は、あおいちゃんもことねちゃんも部活がある日で、私はナシ。一人でとっとと帰る日だ。

 あ、どうせなら、花壇見てから帰ろっかな……。


「星見台さん」


 気が付いたら、いつの間にか、クラスメイトの皆がいなくなっていて。

 教室には、私と、彼しかいなかった。


「オレ、この学校のこと、よくわからないんだよね」


 天手オリトくんこと、メテオくんは、照れたように視線を泳がせる。

 はい、来た。来ました。何かしら仕掛けて来るとは思ってたよ。実際アニメでも、そうやってあかりちゃんと二人きりになっていて、その度にあかりちゃんを無駄にときめかしてましたよね?知ってるぞヲタクは。

 だいたいこの後の言葉は予想つくけど、一言言いたい。

 めちゃくちゃ可愛い。尊い。


「だから、案内してくれないかな?」


 予想通りの言葉を紡いで、困ったように小首を傾げる。

 うーーーーん、百点満点中、二百万点。いや、一億点。いや、無限大?

 あぁ、やっぱり、推しは何をしても可愛いし尊い。

 こんな風にチワワみたいな涙目をして、落とせると思っているのか。

 私はもう、落ちている。


「……、えっと、それ、私じゃなきゃ、ダメ?」


 だけど、ここはグッと我慢をしなければいけないところなのだ。

 中身が純粋な星見台あかりだったら、親切心で二つ返事をして、了承するところだったんだろうけどね。

 唸れ、私の表情筋。耐えろ、私の表情筋。


「星見台さんじゃないと、頼めなくて……」

「いや、さっき、メテ……、天手くんの周りに、クラスの子、たくさんいたよね?めちゃくちゃ誘われてたよね?」

「えっと……、でも、皆、部活の勧誘ありきだし」

「純粋に、遊びに誘われているのもあったじゃん。私、聞いてたよ?席隣だし」

「えっと、それは」

「誘ってもらって悪いんだけど、ここは、天手くんを誘ってくれた子に、学校を案内してもらえばいいんじゃないかな」

「でも、オレは」

「隣の席だからって気を遣ってくれなくていいんだよ。大丈夫。天手くんなら、すぐに友達たくさん出来るよ」


 何か言おうとしているところを遮ってスルーしまくって、二の句が告げなくなっているところに、にっこり微笑む。

 メテオくん、わかりやすくおろおろしている。きっと、今までこんなことはなかったのだろう。普通、王子様が誘えば、誰だってオッケーするもんね。うん、とても眼福だ。

 ごめんよ、最推し。許して、最推し。

 これも、君がこの学校で友達を作るためなんだ。


「それじゃ、また明日ね」


 ひらひらと手を振って、颯爽とその場を後にする。

 ……、多分、今日は、もう何も起こらないだろう。

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