第4話 ドキドキ☆転校生はだーれだ?(推しです!) その1

 突然だけど、女児向けアニメの中で、「マジカル☆ステラ」のような少女戦士もののストーリーに必ずと言っていいほど出てくるお約束の展開は、どのようなものかご存じだろうか。

 色々なものがあるのだが、これも、そのひとつである。

 

「今日は、帰国子女の転校生が来てますよ~!では、入ってきてください!」

 

 担任の女性教師の、何の危機感もない一声で、私は瞬時に察した。

 これは、アレが来る、と。

 

「こんにちは!オレは、天手オリトって言います。皆さん、よろしくお願いします!」

 

 ――、今回の正解は、「敵幹部の子や新メンバーが主人公の学校に転校してくる回」だ。

 もちろん、テレビの前の幼女先輩方がご覧になるので、名前や背格好などが多少変わるものの、人並みの理解力があって、かつ物語上の強制力さえ働かなければ、簡単に「あ、あの子か!」と正解がわかるようになっている。

 ちなみに、メテオくんは、メテオリトから「天手オリト」と名乗っているのと、あかりちゃん達と戦う時の戦闘装束ではなく普通にこの学校の制服に着替えているぐらいで、髪の色とか目の色が変わったりしているわけではないから、比較的難易度は低い方だろう。

 個人的には、この話が一度きりのものでも、ずっと学校に通い続けるのでも、どちらでもおいしいんだけど、メテオくんは後者だ。

 つまり、この教室で一年間、メテオくんは「天手オリト」として、星見台あかりと一緒に過ごすことになる。

 ……、にやけが、止まらない。

 

「じゃあ、オリトくんは、星見台さんの隣の席に座ってね!」

「はい!」

 

 あぁ、猫被って王子様オーラを出しているメテオくんは最高だ……。

 そりゃ、並行世界のコメット王国を背負っている王子様だもの。こういう時の振舞いだって、完璧なんだ。そんじょそこらの俺様系とは全然違う。

 今だって、キラキラした笑顔を振りまいて、教室中の女子どころか男子まで見惚れている……!

 

「あの……、星見台さん、だっけ?」

 

 気が付いたら、上辺だけの綺麗な王子様スマイルを浮かべているメテオくん、もとい、天手オリトくんが、私に話しかけてきていた。

 守りたい。この笑顔も。

 

「えっと……、天手くん、だよね?よろしくね」

「オリトでいいよ。オレ、まだこの学校のこと、よくわからないから、教えて欲しいな。よろしく」

 

 あーーーー!推し!推しが至近距離にいて笑っている!

 待って。本当に待って。尊い……!尊過ぎる……!

 神様、この世界に転生させて頂き、ありがとうございます。必ずメテオくんは幸せにします……!

 まだこっちが名乗ってもいないのに名前を呼んできたメテオくん、流石です!そういうところで詰めが甘い!大好き!

 

「……、どうしたの、星見台さん。オレの顔に、何かついてる?」

「あ……、ついてないです!大丈夫!ごめんね!」

 

 いかんいかん。メテオくんがあまりに尊すぎて凝視してしまった。

 でも、『星見台あかり』である私が、メテオくんに近づきすぎてはいけないのだ。

メテオくんは、この学校で、あかりちゃん以外にもたくさん友達が出来る。

 マジカル・ポラリスの監視をして、いずれはこの世界を滅ぼすっていう目的だったのに、だんだんクラスの皆と仲良くなって、絆されていって。

それで、物語の終盤になって、「本当にこの世界を侵略してもいいのだろうか」って、人知れず悩むようになっていってさ……。その葛藤も美しいっていうか……。もうメテオくんマジ王子様っていうか……。

 いや、メテオくんの葛藤が美しいとか、そういうことのは、横に置いておこう。

 私としては、メテオくんが後で葛藤することになったとしても、そこはアニメの通りに、メテオくんにはあかりちゃん以外の友達をガンガン作ってもらいたい。

 アニメでは、王子って立場上、コメット王国に友達はいなかったし、むしろ、常に国民や両親の期待を背負っていて大変そうだった。

 だから、絶対に戦場にならないこの教室では、せめて安心して年相応の少年らしい暮らしを送って欲しい。

 その代わり、必ず私がこの暮らしを守ってみせるから。

 

「おい、星見台!ほしみだーい!」

 

 突然、先生の声が、担任の女性の先生から、野太いオッサン声に変わった。

 

「ふぇ!?は、はい!?」

 

 慌てて立ち上がると、いつの間にか黒板の前に立っているのは担任の先生じゃなくて、カバみたいな数学の先生だったし、周りのクラスメイト達は苦笑いを浮かべていた。

 

「おい、なにボケっとしているんだ。もう授業はとっくに始まっているぞ。まさか聞いていなかったのか?」

「あ……、す、すみません」

「次からは気を付けろよ」

「は、はい……」

 

 は、恥ずかしい……!

 メテオくんのことを考えるあまり、授業が始まっていたのに全然気づかなかった……!

 そろそろと身を隠すようにして席に座る。

 

「フン」

 

 鼻で笑ったような声が小さく、それも至近距離で聞こえた。

 隣を見ると、案の定、というかなんというか。

 先ほどの王子様スマイルはどこへやら、悪役らしい意地の悪い顔で、メテオくんが笑っていた。

 

「グッフ!」

 

 ……、と、尊い。

 千年後の世界以降も永遠に伝えていきたいこの笑顔。

 メテオくんをこの世から消すなんて、ダメ、ゼッタイ。

 しかも、メテオくんが消えたらクラスメイト達の中の『天手オリト』の記憶も消えてしまうんだから、本当に、絶対ダメだ。

 

「おーい、どうした星見台?腹でも痛いのか~?」

「ナンデモナイデス……続けてください先生……」

 

 オッサン先生が目ざとく黒板からこちらに振り返って揶揄してきたけど、私が押さえているのは腹じゃない。胸だ。

メテオくんが尊すぎて胸が苦しいんだよ、マイティーチャー。

 メテオくんが消える前に私が消えそうだよ。どうしてくれるんだこの尊さ。


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