第5話 追跡
目的地に向かってる途中、Jはこの世界のことについて語った。
「この世界は図形の組み合わせや術式によって、お前の世界で言う所の魔法のような効果を得られる世界だ。この概念には特に名前はついていないが、便宜上術式と言っている」
「そんなことができるんですか?」
「できる。お前がこの世界に来たのも、何かの図形を使って通ってきたからだろう?」
「えぇ、その通りです」
「世界同士がつながるために必要なのは、図形に含まれる形と、それによって集まったエネルギーが一定の水準に達した時だ。だいたいの場合は、偶然それらの要因が重なった人間がこの世界に飛んでくるというものだな」
「はぁ……」
以前山中を走る車。北原は目的地も知らされずに、ただひたすら車に乗っていた。
「この世界の人間たち……世界中の政府や各種国家機関は、異世界への行き方や異世界の人間に対して強い興味を持っている。政府はお前のような人間を探し出し、研究することを最優先目標にしている。実際、お前が人体実験されたのもそういうためだ」
「そうなんですか……」
「幸い、お前のことは転移後すぐに察知できた。そのおかげで、今こうして脱出できているわけだ」
「それは、ありがとうございます」
「だが、人体実験の時に何をされたのか、どんな薬品を投与されたのかは俺が調べた中では分からなかった。目的地に着いたら、お前の体を調べることになるが、いいか?」
「えぇ、問題ありません」
そんなことを言っている間に、車はとある場所に到着する。
そこには、黒いセダン系の車が置かれていた。
「ここで乗り換えるぞ。防護服は脱いでいけ」
「は、はい」
そういって急いで防護服を脱ぎ、もう一台の車に乗り込む。
「あとこれ、お前の持ち物だろう?」
そういってスマホを渡される。
「中のデータは大部分が残っていることを、簡易ハッキングで確認済みだ。あとは自分で中身を確認してくれ」
「ありがとうございます」
「何、礼はいい」
そういってJは車を出す。
「あの、Jさんはどうしてそこまで俺のことを助け出そうとしているんですか?」
「簡単な話さ。異世界から来た人間をそのまま送り帰す、それが俺の役割だからだ」
「役割、ですか……」
「そうだ。深い意味はない。これまでもお前みたいなやつを見つけては元の異世界に送り帰してきた」
「これまでも?」
「あぁ。大体はキチンと送り帰すことに成功している」
「そうなんですか……」
その言葉に、北原はホッと胸をなでおろす。
「だが、元の世界に帰す前に殺されたやつや、転移しようとした瞬間に存在が消えたと思われるやつもいる。お前もそうならなければいいんだがな」
その言葉で、北原は背筋に寒気を覚える。それはすなわち、自分が生きて帰れるか保障はしないということだからだ。
とにかく、生きて帰るにはJのいうことを聞いていたほうが良いということだ。
それだけは北原にもよく理解できた。
「とにかく目的地に向かう。話はそれからだ」
そういうと、車内は無言になる。
正直、Jがどこに行こうとしているのか、北原には見当も付かない。
今は指示に従うだけだ。
その時だった。
後方から何か車が接近してきている音がする。
「こんな薄暗い山中で車を走らせるなんて、お互い大変ですね」
「いや待て……。あの車は……!」
すると、後方から何かの発砲音が聞こえてくる。
直後、リアガラスが音を立てて割れた。
「不味い!研究所のやつらだ!」
「なんか撃ってきましたよ!?」
「銃火器が装備されているのは当然のことだ。とにかく応戦しろ!」
「どうやって!?」
「後ろの席にショットガンやサブマシンガンが置いてある。それを使って何とかしろ」
北原が後ろを見てみると、そこには、細長いバッグのようなものが置かれている。
銃撃されているなか、どうにかして後ろの席に移動すると、北原はバッグの中身をあさる。
Jの言った通り、中にはショットガンやサブマシンガンと思われるものが入っていた。
とにかく、北原はサブマシンガンを手に取り、弾薬が入っているかを確認する。
そしてそのまま、割れたリアガラスから無造作に後方の車に向けて発砲した。
しかし効いていないのか、追跡中の車はどんどん迫ってくる。
「不味いですよ!突っ込まれます!」
「んなこた分かってるよ!どっかつかまれ!」
そういうと、Jはアクセルを床まで踏み込む。
エンジンはうなりを上げて、山道を疾走する。
北原も、できる限りJの手伝いをするように、後ろの車に向けて銃撃を続けていた。
しかしサブマシンガンの弾が尽きる。
仕方なく、北原は慣れないショットガンシェルの装填を行い、ショットガンをぶっ放す。
それでも、防弾仕様の車にはかなうはずもなく、その距離を詰められていく。
「お前!そろそろ目的地周辺だ!前に戻ってこい!」
そういって北原は急いで助手席に戻る。
そしてJがスマホのようなもので何か操作をすると、一言北原に言う。
「変にビビるなよ」
そういうと、Jはハンドルを谷底のほうへ切る。
そのままガードレールを突っ切り、崖下へと転落していく。
「うわぁぁぁ!」
落下する車の中。北原は浮遊感を覚える。
その瞬間、Jは北原の胸元をつかんだ。
直後、北原の視界は白い光に包まれた。
車はそのまま谷底に落ちて、爆発する。
追跡していた車は、その様子を見て、そうそうに立ち去って行った。
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