偏差値52の心臓

おきて

春は来ませんでした。 【510文字】

コロナウイルスに侵された時代を「新しい時代」だなんて呼んでほしくなかった。


だって、それじゃあまるで、これからもずっとwithコロナの時代が続くみたいじゃない。


ニュースで聞いた、「新しい時代」という言葉。新しい様式とか、新しい常識。

そんなの認めたくないのに。私にとって必要ないものなのに。

いつの間にか私の目の前まで迫っていた。


実は、今、私たちの目の前にあるのは、乗り越えるべき壁じゃない。これからは受け入れるべき新しい時代だと言いたいの?

失った時代は元には戻らない。時代は常に移ろいゆく。当たり前のことらしい。

ただ私は偶然、時代の大きな転換期に青春と共に立っていただけ。


元には戻らない状況。

変えようのない状況。

受け入れるべき状況。

私の青春だけが夢を見たまんま、置いてけぼりにされた状況。

仕方のない状況。


それでも、私は変わることなんか望んでいなかった。

これはただの緊急事態であると、誰かそう言ってくれればいいのに。

ほら、ただの緊急事態だっただろと、失ったものなんて何もなかっただろと、誰か証明してくれればいいのに。


その日、いつもの春が始まるはずだった。

2020年4月7日。始業式。高校三年生。大学受験。



だけど私は、明日を望めない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偏差値52の心臓 おきて @okite

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ