第11話 仮面の中身

『|There is always light behind the clouds.《雲の向こうは、いつも青空》』



「ボタン!」


 キキョウさんの悲鳴みたいな声がして、我に返ると、あたしの身体から光の柱が放出していた。すごいエネルギーが、枯れることなく立ちのぼり続けている。


 中に立っているあたしは、なぜかダメージを受けない。そのまま光になぶられながらあたしは上を見上げた。お、もいだした……ミントが刺された時もあたし、こんな風になった。


 前に目を向ける。


「モクレン……さ、ん?」


 あたしたちの前にいたはずの、柔らかくて優しい少女の姿が跡形もなく消えている。最期に見た表情は、それでも逢いたかった人物に逢えたのだろう。とても穏やかだった……でも。


 また、守れなかった。大切だった存在を、まもれなかった……。あたしは光の柱の中で、わずかによろめいた。すると、あたしの様子を見て、金髪の仮面の少女が笑い声を漏らした。


「あら♪」

「……はっ、すんごい力♪ それをいただいて、ちょっと空にしないとそろそろ私限界かも♫」

「ど……いうこと?」


 あたしは震えながら尋ねる。


「『コロニーM』でエネルギーの爆発があって、クレーターみたいな事件現場が報道されて、マツ先生は興味津々だった。それから『コロニーM』からの合格者っていなくて、それであなたの登場でしょう。あなたがそうだとすぐ思ったわよね。だからねぇ、早く寄越しなさいよ……♫」

「う、るぅさい!」

「!」

「そっちこそ! は、やく、はやく消えちゃいなさいよぉ!」


 あたしは両腕を上げると、振り落として自分の光の柱を前方に押し出した。銀髪の彼女がまた、それに両手のひらをかざして吸い取りにかかる。彼女の目の前で、白いエネルギーが集められ、膨張してゆく。


「……ちょっと、多いわ……」


 余裕で笑っていた彼女が、圧縮され凝固した光に、だんだんと恐怖するのが伝わってくる。あたしの注ぐ力は尽きない。


「ごめん、逃げ……!」


 やがて耐えきれず、彼女が叫んだ刹那。彼女の前の大きな光が一部ショートして、銀髪の少女の姿が足下から色が変わっていった。


 黒い巻き毛が現れる。


「ちょっと!」


 キキョウさんが叫ぶ。でも彼女はこちらに見向きもしなかった。彼女は後ろにいる金髪の相棒を庇うように両腕を広げる。そのまま目の前のエネルギーに向かって、覆い被さった。


「……! ベゴニア」


 『ベゴニア』さんの体から、白い光がわぁっと漏れ出て辺りへ凄い勢いで散ってゆく。彼女の白い仮面が溶けるように流れて、褐色の肌が現れる。そばに座り込む少女の髪色は、もう『金髪』ではなかった。いつもは編み込まれて茶色い髪の毛が、肩におりているのを見たのはきっと初めてだ。


「ベゴニア……」

「や……くそく、覚えてる?」

「もう、喋らないで」


 白い仮面の少女が消え入りそうな声で制して、ベゴニアを抱き上げる。銀髪の少女はベゴニアだった。おそらく、ベゴニアは彼女たちの外見を変える能力を持っていた。彼女の力が尽きようとしていて、だから髪色が本来のものに戻ったのだ。そしてもう一人は……。


「世界を、地球を救うのに……卒業するまでマツ先生に協力したら、海外のコロニーへ行こうって」

「うん」

「一人でも行って? 私よりパンジーの方が……本当は楽しみにしてたんでしょう……?」


 そう言って微笑んで、サラサラと褐色の少女は空気に溶けていく。モクレンさんの時みたいにベゴニアがすっかりなくなってしまうと、もう一人の仮面の少女は、白い仮面を剥いでその場に投げ捨てた。現れたのは泣き濡れたパンジーの顔だった。


 キキョウさんが息を長く吐いたあと、あたしに振り返った。


「ボタン……ジャスミンさんは?」

「大丈夫、気を失ってる……」


 あたしの後ろで、ジャスミンさんが髪の毛を床に散らして倒れている。それを確認してキキョウさんはパンジーに向き直った。


「パンジーさん、もう止めよう?」

「……」

「あなたたちに指示していたのは、マツ先生だったんでしょ? あの人はもういないじゃない」

「まだ、終わってない。だって……」



「そうだよ、『黒幕』はきっと。俺になるからね」

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