第16話 タケとマツ
金色のポニーテールが白い仮面の上で揺れる。
「ふぅん」
タケさんがにやりと笑う。
「これが例の、『仮面の少女』、ね」
金髪の後ろから、もう一人(銀髪の少女)が現れた瞬間に。タケさんの後ろの黒い塊が一斉に『手』を伸ばした。まるで液体が注ぎ込まれるように二人の頭上から真下へ伸びていく。
「ふふ♫」
余裕の笑い声が漏れた。銀髪の彼女の身体は光輝いて、右手を上にあげただけで、なんとタケさんの黒い物体の腕を『吸収』した。まるで焼け終わった灰みたいにチリチリとその場で崩れ落ちる(本体はわずかに小さくなって見えた)。
「……っ」
「あーりょうしつ良質ぅ♫ 男性のエネルギーってのもまた格別なもんね」
「今度はこっちの番だね♪」
そう言って金髪の少女が、銀髪の少女と指を絡める。いつぞやのように、繋いだ腕を掲げた。屋内プールの照明が点滅し、『光』がまた、彼女たちの頭上に溜まっていく。ただこないだと違うのは、光の塊が、まるでマーブル模様のように『黒』を孕んでいたことだ。
『光を……』
エネルギーはバチバチと雷のような電気を帯びている。二人は、こちらに向かって腕を振り下ろした。
『
放たれた光の矢の先端が黒かった。それがビリリと帯電しているのも分かる。
『
私は咄嗟にモクレンさんと並んで手をかざす。しかし、バリアーはひどく不完全な形で張られた。私の方の力が全く反映されてない……?!
「な、に……?!」
「あーちゃん、下がって!」
「でも!!」
「だって、今力が使えないでしょ!」
そう言ってナツメに、首の後ろに指を数本突っ込まれて、乱暴に後ろに投げ飛ばされた。モクレンさんが先頭に立って、私を囲み守るように三人が移動した。タケさんだけが黒い塊をまるで傘みたいに前方に差し出して、そしてそのまま仮面の二人に向かってじわじわと歩いてゆく。
「ちょ、何よ、アイツ♫」
「まぁいいわ、こっちまで来たら私が……♪」
「……お前ら、ちょっと待ちな」
反対側の通路に現れたのは。何とマツ先生だった。いつものジャージ姿ではなく、灰色の、質の良いスーツを身に纏っている。
「それは俺の客人だよ」
前髪を後ろに撫でつけていると、まるで別人のようにキレ長の目が映える。その目をうっそりと細めると、萎縮したように仮面の少女たちは攻撃を止めた。
マツ先生に、どこか上の空でついてくる黒髪の少女が一人。しかし、前話した時みたいに眼鏡をしていない。黒く、艶やかな髪の毛が揺れた。
「キンモクセイさん……」
私のすぐ右横の、キキョウさんの身体がわずかに揺れた。心の動きが読めないが、彼女が動揺しているのが分かりやすいほどわかった。
「マツ、それが学園長代理の格好? 馬子にも衣装とは言ったもんだねぇ」
「タケ……」
「や! そちらさんは久しぶりだね~」
タケさんは仮面の少女たちをすり抜けて、マツ先生の方へと四角い水辺をぐるりと回っていく。仮面の少女たちはどこか口惜しそうにそれを見送るしかない。
「君は全然変わらないね」
黒い物体を背負って手を広げるタケさんに、キンモクセイさんは警戒したようにマツ先生の後ろに隠れた。
「初めて逢った時はそうだなぁ、俺たちよりてんでお姉さんで……てかさ『お前』は何してンの?」
そう言うと、マツ先生は彼女を庇うようにタケさんと向かい合った。
「……だれ?」
キンモクセイさんが訝しむように黒髪の合間からタケさんを見上げる。瞬間、タケさんは酷く傷ついた顔をして、唇を噛み締めて彼女にまた一歩近づいた。
「……また忘れちゃったの? その、指輪をしているのに?」
そこで、彼女が左手薬指に指輪を嵌めているのが遠目にも見えた(私は目がとても良い)。
「なぁタケ。親父は今まで、白い仮面の女の子たちを使って彼女を地球に引き止めていた。……でも悪い。卑怯なことだけど俺は『それ』をしていたことを忘れたい。彼女は『この姿』で『ここ』にいてはいけない……彼女を、キンモクセイを。俺たちで解放してやらないか?」
「……」
「タケ。親父はもうとっくに『死んでる』。遥か遠い惑星の少女なんかに執着するのは止めろ。もう彼女の感心は、俺たちになんてないよ……」
「……」
「『大切な人』が見つかったんだって、なぁ、タケ」
「やぁあなこった!」
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