第12話 PSI(サイ)
私とモクレンさんは、何となく気まずいまま、互いに黙りこみ、目当てのビルに到着してしまった。いつの間にか繋いだ手も振り解けていた。それに心の片隅で安堵する。
「って言うか、お前ら遅い!」
「いやいや、普通ですよ〜、フルで授業あったもんで」
「あ、そーなの? 何だかごめんね。まぁこっち来て」
ビルの地下、駄々広いフロアでは。ご立腹のタケさんと、飽きたような顔をした年下三人が待ち構えていた。天井も異様に高くて、側面の白い体育館といったところだ。
「ハイハイ年長者二人が到着したということで! 今日はみんなの
いきなり私か……。
「キキョウの飛行能力は一種の
へー……知らなかった。と自分の手のひらを思わずじっと見た。そう言えば空中に浮かぶ以外に能力を使ったことがない。もしかしたら、そこそこの重さの物なら、移動させたり飛ばせたりできるのかもしれない。タケさんは私に何も振らず、ベラベラと一人喋り続けている。
「続いてモクレン。予知能力及びテレパシーとかいわゆるESP、『超感覚的知覚』と呼ばれる受信系の力が強い。あとは自分が内在するエネルギーを利用した防御力、つまりバリアーはアサガオも同様に使えるだろ? ところで、予知をしようとすると身体に異常が現れるんだったかな」
「はい、頭の奥がキンッと痛くなります~」
……そうなんだ。私は最初に会った日のモクレンさんを思い出していた。窓際で頭を抱えてしゃがみこむモクレンさん。私たちのために痛いの我慢してくれてたんだ。何だか感動した心地でモクレンさんを見つめる。
「何か良い解消法あればいいんだけどな、次! アサガオ!」
「はい!」
あーちゃんが右手を高々と上げたので、私たちは必死で笑いを堪えた。まるで小学校の教員と生徒のやりとりである。
「俺もちょっとは使えるけれど、アサガオも自らのエネルギーを媒介として病気や怪我を治せるんだな。だから力を使ったあとは疲労感とか残るんじゃないか?」
「っていうか、ひたすら! 眠く!! なります!!!」
そういえばボタンの傷を治したあと、あーちゃんは私とホテルに戻るとすぐ寝入ってしまったようで、その日近くのレストランで催された夕食会(とは言っても私たち五人だけの)に顔を出さなかった。
タケさんは何かタブレットを見ながら話している。どうやらそれには、前回の私たちの戦闘での行動が分析されて詳細に表示されているらしい。見たい……。とても見たい(自分以外のを)。
「ナツメはそういう意味では効率的な能力みたいだな」
「?」
ナツメは分からない様子だ。
「自覚はないようだけど、キキョウと同じ念動力の一種だな。周りの光や空気のエネルギーを集めて、攻撃できるよう凝縮して放出している。だから自分自身の力ってのは節約できる。でも光が少ないから夜は光の方、使えないでしょ?」
ナツメが静かに頷く。なるほどね。
「まあ光以外のエネルギーも利用できるから、水は試してみた?」
「水は私にはちょっと重たくて……集めることもできませんでした」
「そうか、惜しいな……。これも何か良い方法があるといいんだけどな、以上! 説明終わり!!」
は? えっ? あと一人いますよねぇ? するとまたあーちゃんがシュバンッと挙手した。
「先生! ボタンは?!」
えっ?!
「そうそうボタンはな……」
って、いつからこの人先生に……(違うちがう、先生じゃないセンセイじゃない)。しかも普通に答えてるし。
「もちろん『コロニーM』にいたころより上達しているよなぁ?」
タケさんがボタンにニッコリと思わせぶりに微笑みかける。その笑顔が逆に怖い。ボタンは青ざめてオロオロしはじめた。
「じゃボタンはーそこに立って、ナツメはー立ってるラインにこの可愛い熊ちゃんのマスキングテープで印つけて、そうそう、じゃあ挑戦してもらいましょう、お前ら瞬きするなよ? 3・2・1・はい!」
タケさんが眼前で柏手を打った。ボタンは両手をちょっと握り締め、次の瞬間……なんと消えた! でも、私が瞬きした次の刹那には、また元の位置に戻っている。
「……は?」
「ナツメー、どれくらい移動している」
「五センチ、くらいかな……?」
ナツメは指で大まかにボタンの足とラインを測って答える。タケさんは無言でボタンに歩み寄ると、指でパチン! と彼女のデコを弾いた。いわゆる『デコピン』というやつだ……。あれは地味に痛いし、気分的に嫌だ。
「お前なぁ、練習しとけって言っただろ? これじゃあ何の能力かみんなにわかんないし、伝わんないじゃん」
「だってだってぇ……」
ふみゃーとボタンが泣き声を上げる。
「言い訳は一切聞かない!」
ピシャリと言い切ると、タケさんは私たちに向き直って話を続けた。
「分かりづらかったと思うけど、これがボタンの能力。要は瞬間移動だ、テレポーテーションとも言うな」
「五センチで~……」
モクレンさんがまたツボに入ったのだろう、耐えきれないように忍び笑いをしている。それを見てボタンがまた泣きそうだ。
「一瞬消えたのをお前ら見ただろ? あの瞬間ボタンの肉体はこの三次元を飛び出して、違う次元を通って五センチ移動したところに転送されたわけだ」
「すごいじゃん、ボタン」
私は本当に彼女が泣いてしまわないように、ちょっと大げさに褒めてあげた。ボタンはちょっと元気を出してにこりと微笑む。本当に、黙って笑っていればこんなにも美少女なのに……!
「お前ら自身を知ることは、秘めている能力の開花にも繋がるんだからしっかり精進しろよ。潜在した力が多いほど、お前たちだって学園側に狙われる可能性があるんだからな」
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