電車内の少年

@migakasoma

電車内の少年

 たぶん、電車から出られないんだと思う。このままずっと。  

 なんとなく一人で買い物に行きたくて、中学一年生の僕は休日に朝から地下鉄に乗ろうとしていた。電車に乗るまで、別になんともなくて、肩が痛いなぁなんて思いながら歩いていた。でも電車に乗った途端世界がまるごと逆に回ってしまったようなぐわんとした感覚に襲われて、気持ち悪いと思いつつ休日のがらんとした椅子に腰を降ろした。

 そのまんま時間が過ぎていって、いつまで経っても着きたい駅には辿り着かなかった。とはいえ名前も知らない別の駅には着く。そこで降りればいいけど、何とも言えぬ恐怖感で降りることはできなかった。ガタンゴトンと言う音だけ響く。週刊誌の広告の、モノクロの総理大臣と目が合う。時間が流れているのをひしひしと感じていた。

 すごくピンチ…のはずである。でも、なんとも居心地が良くって、ただぼんやりと、ぼんやりとドアの辺りを見つめていた。ずっとこれでもいいかもしれないとすら感じていた。スマホなんて持っていなかったけれど、それでもよかった。

 でも流石に暇になってきて、隣の人に話しかけた。隣の人は藤ヶ谷さんと言って、僕と同じような状況らしかった。なんとなく仲良くなって、漢方薬の広告は胡散臭いだの話して、また静かになった。  

 この電車は、どこに向かってるんだろう。いつか、終点が来るのだろうか。実は環状線で、気づかないだけでぐるぐる巡っているのかもしれない。どちらにせよ、今はわからない。

 若い、どころか幼い、に入ってもおかしくない僕の未来がなくなるかもしれないことは、良くない事、なのかもしれない。でも、僕はどうでも良かった。青春なんて、脆く危険な娯楽の一つだ。なのに、避けるなんてできない。許されているようで、そんなわけはない。そんな世界で生きていたんだ。だから…だから…   

 まぁ、人生なんてそんなもんかな。揺れ、揺れる電車内で、僕は眠る

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