第18話 実は男爵

アルス神父とシスター、大勢の子供達に見送られて帰路についた。具沢山スープとパイ、そしてクッキーを食べた子供達は満面の笑みで手を振ってくれた。神父様とシスターは涙を流していて、やはりたった一日であってもこんな日があった方がいいと思えた。


マーガレットさんとは次も会おうと約束をした。騎士さんに聞いたところ、孤児院訪問を目的として申請すればおそらく一週間後くらいには許可が出るだろうとの事だった。お小遣いも出して貰っている身だし、毎日来たくてもしょうがない。マーガレットさんは一週間後を目安にしてその辺りは毎日通うそうだ。そんなにケンの話す物語が聞きたかったのか。




「古傷や内臓も治せたようじゃの。しかし生まれた時になかったものは治せずか。まあ自然の摂理じゃな」

「症状に違いはあったが11人治った。体を再生するのは力を使うみたいだったから、ただの毒や麻痺ならもっといけるかもしれん」


「それだけの数を治せるのは素晴らしいが、使い続けるともしかすると人数を増やせるかもしれん」

「じいさんもスキル使ってるうちに増えたのか?」

「ワシははじめの頃水晶無しで数人しか視えんかったが、試行錯誤しながら使っていると慣れて一日十人以上鑑定できるようになった。水晶使うと楽に視えて人数も増える」


シモンさんの事だから毎日使えなくなるまで使い倒したのだろう。週一の私はどれくらい使えば増えるのだろうか。


「あと確認するのはどんな症状かな」

「ふむ。切り傷や擦り傷は治せるかの?」

「あー忘れてた。いっぱいいそうなのに。でもそういうのって聖女様の仕事なんじゃないのかな」


「あとは骨が折れたのも治せるのかと、体や患部に触れずに治せるのか、そういうのはどうかの」

「骨折かぁ。ソルさん、ケンの腕折ってみてくれる?触れずに治してみるから」

「承知しました」

「おいやめろ」



孤児院で出会ったマーガレットさんの事もシモンさんに話してみた。世間話的な気持ちで話したのに、シモンさんは興味を示した。お城の魔術研究所で働いているせいか、マーガレットさんのお姉さんが聞いてきた話と同じような噂をよく聞くらしい。


「ワシも貴族の端くれじゃからのぅ。その令嬢の家族達の焦りや戸惑いも分かるわい。それに婚約に何かあった令嬢はその後良い人生を送れんと聞く」

「えっ?!シモンさん貴族だったの?!」

「名前聞いたら分かるじゃろうに。長い名は貴族が多い。ワシは一代限りの男爵じゃがな」

「なら、シモン男爵?」

「ワシの名を覚えとらんのか?ラルミナ男爵じゃ」


なんとシモンさんが男爵だった。男爵イモ美味しいよね、ほくほくしてて。違う。ということはシモンさんは貴族だ。貴族にこんな話し方でいいのか?いいか、おじいちゃんだし。



「それでそのご令嬢はどうするんかの?泣き寝入りしかないように思えるが」

「破棄されないように祈ってるらしいけど。その相手の男ってのも優しいとか言ってマーガレットさんに優しくないよね」

「俺ならそんなフラフラしてる奴とその家族は信用できんけどな。もし俺が舞踏会に出てて、目の前でマーガレットみたいな美人が婚約破棄されてたら、要らんなら俺にくれって言う」

「男前だねぇ」

「それじゃ!!」


シモンさんは閃いたとばかりに目を見開いて叫んだ。


「聖女様主催の夜会や舞踏会には独身の男が大勢招待されるという。今の話や噂を聞いてると、次の騎士の物色をしてるんじゃないかとワシは思う。その独身の男の中には聖女様の好みではなく声をかけられない男もおるじゃろうし、そういう男から惚れられてしまえば良い」

「そうか、婚約破棄を避ける方法じゃなくて、そんな女でも良いって言う普通の男を、舞踏会で捕まえればいいのか。招待されるってことは変人はいないだろうし。綺麗になって見返してやるってアレだ。絶世の美女が目の前で傷ついていたとすると、独身男としては放っておけないだろう」


「でもダニエルさんじゃないと嫌なのかもしれないよ?」

「いや、ダニエルとの婚約が決まったのも最近って言ってたし、大した愛情も持ってなさそうに見えた。本人の意思確認は必要だがな。ダニエルが相手を代えるんだ、その後ならマーガレットだって相手を代えてもいいだろう」


「そんなにうまく見初められる?傷物でもいいって人が出てくる?」

「それは現代日本の知識を総動員して、マーガレットを凄え綺麗にしてやればいいだろう?あれは磨けばさらに光る。傷物だろうが何だろうが関係なく欲しいって思わせたらいいんだ。タケ得意だろ、二軍の男落とすの」


それではマーガレットさんに二軍の男性をあてがう事になるではないか。それに一軍の男性だって時には…まだ前例はないけれども。要は外聞が気にならなくなる程に美しくして、変人とか老人じゃない人に手に入れたいと思わせれば良いってことか。



その後の一週間はシモンさんからこの世界の舞踏会の事や女性の衣装、アクセやメイクの事を聞いて下調べをした。メイクとかは分からないみたいだったけど。マーガレットさんはまだ舞踏会に招待されていないようだったが、ダニエルさんが気持ちを決めたら動きがあるだろうと予想を立てた。シモンさん情報によると聖女様は治癒を使いもせず、美形男性を侍らせて日々優雅にお茶会やお食事会を開いていると言う。私情の悪感情が入ってしまった。でもそれだけだと暇そうだし、騎士に任命する為とかの口実があればすぐ舞踏会を開きそうだとケンも言う。どんだけ聖女様のこと嫌なんだ。それとこの国の未来は大丈夫なのか。




「カレーおいしい」

「スープカレーな。米があればもっとうまい。しかし城のシェフすげぇな。配合でもっと苦労するかと思ったのに」

「毎日カレーにしよう」

「ならスパイス買うだけの金がいるだろ。この前タケ仕事探すの忘れてたろ」

「わすれてた……」


街で買った香辛料をお城の料理人さんに渡して数日でスープカレーが出来上がってきた。いつもの具沢山スープがカレー味になっただけのような気もするが、すごく美味しい。語彙力が少なくなるほど美味しい。さすが日本人の国民食。


「タ、タケ殿。私どもにも分けていただけませんか?食事の運搬時からそれはもう良い匂いが食欲を刺激しまして。料理人はあの香辛料でタケ殿達の食事量しか作らないのです」

「んー、次に街に行った時に同じ香辛料買ってくれるなら分けてあげる」

「もちろんでございます!私の給与を全て注ぎ込みましょう!」

「それと聖女様の動向も教えてね」

「お任せください!」


ヨハネスさんとアレックスさんは街で行動するようになってからかなりこちら側にいる。マーガレットさんの話に感情移入して激おこだったし、当初よりも城内の事を詳しく教えてくれるようになった。その彼らからの情報で、近々舞踏会が開催されそうだという話をつかんだ。まだ招待客の選別中らしいが、おそらくダニエルさんの心が決まったのだろうと思う。

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