第4話 平和な日々
召喚されてから一ヶ月が経った。
一ヶ月間の生活は、朝起きて朝ごはんを食べ、書物室に行き文献を読む。昼に部屋へ戻りお昼ごはんを食べ、昼寝する。起きておやつを食べてから書物室に行き文献を読む。夜に部屋へ戻り晩ごはんを食べてお風呂に入って寝る。
日本にいるときよりも怠惰で優雅な生活をしている。
食事は三食全てがパンと肉野菜スープと果物くらいの簡素なものだったがスープの味付けはそれなりにしてあるし、具だくさんで量もあり栄養もきちんと取れていると思う。何より私は居候のようなものなので文句は言えない。いくら勝手に召喚されたとはいえ、お金を持ってないし稼ぐこともしていない。
この家と家の裏庭、そして書物室くらいしか出入りが許されていないので、その状態で稼ぎようがないじゃないかと言い訳をする。
裏庭が荒れ放題だったので花でも植えてみようかと思い、花の苗を買うために街へ出たい、お金くださいと申請してみたが花の苗だけが運び込まれてきた。存在を持て余されている感がひしひしとする。
持て余すなら街へ放り出されるのではと最初はビクビクしていたが、召喚しておいて帰る方法がないという事にちゃんと罪悪感を持って貰えているようだった。さらには王族は毒の混入などが日常茶飯事で、万が一にも対処法の見つかっていない毒が混入された場合にもしかしたら私の状態異常回復が使えるのではないかと思われて囲われている。
日常茶飯事の毒混入、こわい。
一度も使った事のないこの能力が使えるかも分からないのにとんだ博打ではないか。能力の使用に関しても、状態異常な人がいそうな所へ行きたいと申請してみたが却下された。シモンさんの予想では護衛付きであれば城外へ出られるだろうとの事だったが、あっさりと断られた。王様から面倒くさい女と思われている気がする。この場合は宰相とか聖女様とかかな。
シモンさんは私の住んでいる家や書物室へちょくちょく顔を出して話し相手になってくれる。書物に書かれている事と私の日本での知識を合わせての見解を話してみると嬉しそうに聞いてくれるし、シモンさんが今までに得た知識も惜しげもなく教えてくれる。もはや茶飲み友達のように気軽に話せる男性だ。おじいちゃんだけど。
仲良く話せるようになった頃には、初めてシモンさんに会ったときに付いて来ていた黒い服を着た男性護衛のソルさんを私の護衛として申請を通して貸し出してくれた。ソルさんはこんがり焼けた褐色肌で、長い黒髪を首の後ろで一つにまとめている。少々タレ目のイケメンで口数は少ない。体は細く見え表情はおっとりしているが、シモンさんがいつも護衛として傍に置いているからきっと凄腕なのだろうと思う。
「こやつは信頼のおける男じゃからの。家の中に武器を持った甲冑姿のいかつい男がおるよりもこの存在感のない男のほうがええだろうと思うて。ソルの腕は一流で騎士に引けをとらん」
「女性の護衛の人とかいないんですか?」
「あの聖女様が女性不振とかなんやらで、女騎士からメイドまでほとんどが男に入れ替えられてしもた」
当初からは想像できない砕けた口調で話すシモンさんは威厳のある黒いローブを着てはいるが、普通のおじいちゃんだった。聖女様の近くにいる金髪碧眼の美男子騎士たちは盲目的に聖女様を崇めているようだが、ある程度年齢を重ねた男性であったり、私の家の警備を交代でしてくれているような少しだけ残念な容姿の騎士の男性達は、聖女様にそれほど特別な感情を抱いていないように見える。
「だからお城の中は男の人ばっかりなんですね。でもソルさんを貸して貰えて助かります。人を借りるとか変な感じですけど」
「こやつは無口じゃからあの騎士達のように楽しく話したりはできんで物足りんかもしれんがな」
「あの騎士さん達みたいなタイプって仲良くなると危険なんですよね」
「危険とは?」
「ほら、私ってちょっとだけ可愛いじゃないですか」
「んんん、ちょっとと言うか、ちゃんと可愛いと思うがな……ワシの故郷の村だったら上から三番目くらいかの。髪の短さも影響しとるかの」
シモンさんは目をそらしながら答える。ソルさんも目をそらしている。人が話しているときは相手の目を見ましょう。
「ちょっとだけ可愛いから、一番可愛い子は高嶺の花で振り向いてもらえないけれど三番目くらいならいけるんじゃないかって思う男の人が多いんですよ。それでイケメンは迷わす高嶺の花を狙いに行くところを、あの騎士さん達みたいな少しだけ残念な容姿の人達は私に来てしまってあの層にモテてしまうんです」
「なるほどのぅ。しかしモテることは良いことじゃないかの?タケも悪い気はせんじゃろう?」
「男性と女性の考え方の違いでしょうかね。女性は、打算と下心を腕いっぱいに抱えて寄ってくる男性を気持ち悪いと思ってしまうことがあるんですよ。少なくとも私はそうです」
「あの騎士達が気持ち悪いと?」
「今はまだ仲良くなりたてなので大丈夫です。でもこのまま日が経てばきっとそうなりますね。目を見たら何となく分かります。ソルさんにはそれがない。できれば騎士さん達とは今のままの関係性を維持したいです」
「女心は難しいの……」
シモンさんはやれやれといった顔で肩をすくめた。ソルさんも無表情ながらも理解できないような顔をしていた。ソルさんの顔をじっと見つめると、その灰色の目で見返して来られるが、そこに私の思う危険な香りはない。高嶺の花を難なく手に入れることができそうなその容姿。これだけイケメンだと私レベルなら眼中にもないだろう。
聖女様はソルさんを近くに置こうとは思わなかったのだろうか。騎士さん達は色白ばっかりだったからもしかして褐色肌は好きじゃないのかな。同じ女性でも人の好みは千差万別だから私が口出しするようなことでもないか。
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