第3話 能力

「もしも帰還や返還の儀について解明できたら、ご教授願いたい。タケさんひとりでは準備など難しいでしょうし、私どもも呼び出した責任として全力で協力させてもらいたい。書物室についても申請があればすぐ出入りの許可を出すように言いつけておきましょう。それとこの家は自由に使って貰って構いません」


シモンさんが苦し気な表情をして頭を下げる。魔術研究所とかいう頭の良さそうな人たちが寄ってたかって調べて分からなかったことが高卒の私にわかるのだろうか。疑問に思いつつも提案を受け入れた。挑戦する事と協力者は必要だ。


「召喚とかそういった事については分かりました。次はここで生活する上で重要なこととかありますか?」

「ああ、そうでした。能力についてもご説明しておかなければなりません」

「能力?」

「はい、この世界の人々は生まれながらに何かしら能力を備わっている事があります。多くの平民は何も持ちませんが、貴族の子の中には能力を持つものが一定数いるとされています。それは巨大な火の玉を出し敵を穿つ能力、そして―——―――」

「あの、ちょっと待ってください」

「今いいところなんで」


壮大な物語が始まりそうだったので止めた。このおじいちゃんは歴史とか伝承とかそういったものが好きなのかもしれない。急に両手を広げて歌うように語りだすからそんな気がする。


「できれば三行でお願いします」

「また三行か。なぜ三なのか。ふむ」


シモンさんはまたもや顎に手を当ててふむふむと唸った。そして意を決したように顔を上げると、私の目を見て言った。


「貴族の子の出生時に能力判定をする、召喚されたタケさんにもする」

「国に好まれるのは攻撃型の能力だが、能力持ちは攻撃型でなくても希少とされている」

「魔術研究所は攻撃型ではないが希少な能力者たちの集まりであり私はその研究所の所長である」


何だか最後に自慢の様なものが入っているように聞こえたがスルーしよう。シモンさん良いおじいちゃんぽいし。シモンさんは三行告げたあと、机の上の水晶を見つめる。そういえばタケにもするって言ってた。私は綾香ではなくタケだった。


「この水晶で能力が分かるんですか?シモンさんがするんですか?能力以外に分かることはありますか?私は何をすればいいですか?」

「水晶に手をかざすだけでいいですよ。こちらで読み取れますので。読み取るのは能力のみとなります」


それを聞いて安心した。偽名がバレるかとどきりとしたが、シモンさんの言葉を信じるならバレないようだ。しかし職業というか、「聖女」「勇者」「神官」などの役職についてはどこで判断するのだろう。あの煌びやかな美人はどのように『聖女』とされ、私はなぜ『勇者』ではないと分かったのか。女性でも勇者役出来ると思う。



しかし今は言われるまま、水晶に右手をかざす。無機質な丸い石の塊が、ふわっと光を放ってびくっとしてしまった。シモンさんと黒い服の人と騎士さんが光っている水晶をじっと見つめる。全員に私の能力とやらが見えてしまうのだろうか。少しはずかしい。


「視えました。状態異常回復能力です。私は初めて見る能力ですが、おそらく攻撃型ではない魔術でしょう!」

「おーっ!やったぁ!」


シモンさんのテンションが上がり、嬉しそうに言うのでつられて私も喜んでしまった。黒い服の人と騎士さんも、シモンさんの言葉を聞いてから反応してたので視えるのはシモンさんだけのようだった。しかし状態異常回復とは?


「それは何ができる能力ですか?」

「文字から察するに、状態異常、すなわち毒であったり麻痺であったり石化のような状態を全て回復するのだと思われます。毒解除または石化解除などの単体ならちらほらおりますがそれらが全て使える可能性があります。対象が自分自身のみであるか、他者にも適応可能かは実践してみない事には分かりません。先ほど会われた聖女様はこの能力が『治癒』となっており、書物室の文献によると過去に治癒能力を持つ聖女が、剣聖能力を持つ勇者と共に魔王討伐で活躍したとありました」


なるほどだから彼女が聖女様と呼ばれていたのか。美人だからではなかった。しかし私の能力が『剣聖』だったらどうしたのだろう。鑑定もせずに一目見るだけでなぜ違うと言い切れたのだろうか。それと石化って聞こえたけどファンタジー感強いな。


「どうやって使うんだろう。早速能力の確認をしてみたいんですが……あ、私が飲んでもいいような毒あります?」


私の言葉にシモンさんとその他の男性達が目を剥く。すぐ死ぬ系の毒とかじゃなくて、しばらく麻痺するとか、痙攣するとか、軽い毒でいいのだけれど。


「召喚されたタケさんを危険にさらすことはできません!まずは毒を飲んでも問題のない動物や毒状態が続いている孤児を用意しましょう!」

「いや、そっちのほうが問題だから。」


というか孤児と呼ばれる子供たちが前々から毒状態ですぐ出来てしまう国なのか。王様は何をしているのだろう。まだ現れてもいない魔王に気をとられたりせずに、そういった子供たちを救うべきではないのだろうか。聖女様の身に着けていたアクセサリーひとつで結構な数の子供たちが救える気がする。


「じゃあどうすれば確認できます?そうだ、定番の騎士団とかの訓練を見守って毒を受けた人に能力を使ってみるとかどうですか?」

「騎士団の訓練で毒は使用しません」


「なら、魔物退治の遠征とかについて行ってみるとか」

「タケさんを危険に晒す事は出来ないので、辺境まで連れて行けません。それに毒消し草や様々な種類の薬草があるので、間に合っています」


あるんだ、魔物退治の遠征。ファンタジーっぽくて興味ある。それよりも薬草で対処できるなら私の能力、いらなくない?


「じゃあ私は何をすれば?この部屋と書物室の往復だけ?還る方法がみつかるまで一生涯ここに?」

「とりあえずはこの能力について報告をあげて指示を待ちますので数日はこの部屋でお過ごしください。できる限りの協力をさせて頂きたい。叶うならば魔術研究所で迎え入れたいものですが」


シモンおじいちゃんはそう言い残して黒い服の人と一緒にお城へ帰ってしまった。たくさん話して疲れたらしい。もっともっと知りたいことはあるけれど、召喚されて能力も判明したばかりで、シモンさんの独断ではどこまで事情を話してもいいかも分からないそうだ。そうやって正直に教えてくれるシモンさんはきっと悪い人ではないのだろう。あの聖女様とやらには何だか嫌な印象を持ってしまったが、それも今の興奮状態からの勘違いかもしれない。



寝室に置いてあるクローゼットを開けると、寝間着のようなシンプルなワンピースが入っていた。本当にこの家は何のための家なのだろうか。私が来ると予想されていたように家具も衣類もそろっている。


考えようとしたが初めての事ばかりで頭が疲れてしまったので、勝手にワンピースに着替えて寝ることにした。入口近くに立っていた二人の騎士さんに声をかけて自由に過ごしてもらう。


「ちょっと昼寝するので、夕食が来たら起こしてください。あれ?夕食もらえるのかな」

「え、ええ。もちろんこの部屋までお運びしますが……寝るのですか?」

「することないし、暇なんで。私どこでも寝れるんですよ」


得意気に胸を張って言ってみたが、騎士さんは困惑した顔をしていた。寝れるときに寝て、いざという時に備えるのは基本でしょう。いざという時が来ない事を願うけれど。


ぽかぽかと暖かい陽が差し込む部屋で大きなベッドに横になると、あっという間に寝入ってしまった。

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