私の推しはガチャの中にいる

みこ

私の推しはガチャの中にいる

 ガチャから出てくるカードの最高ランクは星4。

 10連引くのに3000円。

 出る確率は数パーセント。

 天井まで行くのに9万円。

 それでも、諦めきれないのだ。だって、推しのカードだから。


 こんなにハマるとは自分でも思っていなかった。

 でも……この現実味のない格好の黒髪長身イケメンが、私の人生を狂わせる。

 とはいえまだ、私は課金したことはないんだけど。

 ガチャを回せるクリスタルの手持ちは25000個。10連回すのに3000個必要だから、80連分。

 手持ちクリスタルが少ない今、でも来てしまった。

 期間限定ピックアップ“虎鉄”。

 虎鉄というのが私の推しの名前だ。名前もかっこいいのだ。

 ベッドに横たわったまま持ったスマホ。ガチャの画面を見たせいで手が震えてしまったから、ゴッ……とスマホがおでこの上へ落ちた。

 慌てて起き上がり、スマホの無事を確認する。

 ……大丈夫。ちゃんと動く。

 そしてまた私は、震える手でスマホに映るガチャ画面を見た。

 こっちを睨むように見ている虎鉄くん。

 期間限定、の文字がでかでかと、誰の目にも入るように書いてある。

 これはつまり、これを逃すと次に手に入る機会はないかもしれない、ということだ。

 ああ、でもかっこいい。引かないわけにはいかない。

 改めてスマホを握りなおす。

 虎鉄くんが生きている世界の神に祈る。

 来ますように来ますように来ますように来ますように。

「えい」

 勢いをつけて押す。

 1枚、2枚、3枚、4枚……。

 キャラクターが登場する度に枚数を数えていく。

 残念。

 星4カードは1枚もなかった。

 うん。でも、まだ1回目だから。

 お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします。

 目を閉じ、勢いをつけて2回目の10連。

 けれど。

 それが当たり前だとでもいうように、星4カードは出ることがない。

「星3が……1枚……」

 ま、まだ許容範囲。

 3回目。4回目。と続けて引いていく。

 そりゃあまあ、2、3パーセントのものが、こんな運良くでるとは思えない。

 欲しいものの確率はとても低いものなのだ。

 今度は心を無にして5回目、6回目を引いていく。

「…………」

 だんだん、追い詰められているような気持ちになってくる。

 手持ちクリスタルで引けるのは……あと10連2回。

 とりあえず、虎鉄くんのイラストを紙にさらさらと描く。

 描くと……出る……。

 そう、描くと出るのだ。

「えい」

 と、7回目になる10連を勢いをつけて引いた。

 あ、星4演出……!!

 奇跡みたいだった。だって、今回のピックアップは虎鉄くんただ一人。これで違うキャラクターが出るなんて、確率が許しても果たして私が許すかな……?

 ブォン……という振り子時計のような星4確定の演出の後、そこに登場したのは……。

 そこに登場したのは、ピンク髪ツインテールの小柄な女の子だった。

「違う……」

 どうして?虎鉄くんじゃないなんて。

 どれだけレアでも、どれだけ役立つとしても、推し以外はただの紙切れだ。

 そのレアな星4が出てしまったあと、星4がまた出るなんて思えないけれど……。

 でも。

 私は推しを愛でたい。愛でながらゲームがしたい。対戦フィールドで推しを表示させたい。これが推しだとアピールしたい。その推しの星4を持っていることを無言で自慢したい……。

 私は、無言で自室を出た。部屋を出たところで、足元に「にゃあん」と猫がすり寄ってきたのが目に入る。飼い猫のユウくんだ。

 私はその場にしゃがみ込む。ユウくんのむにむにの肉球がついた前脚を掴む。

 だって、言うじゃないか。誰かに押してもらった方が、あたりが出やすいって。

「えい」

 猫の猫らしい肉球が、そっけないガチャの10連ボタンを押した。

 出な……い。

「…………」

 空っぽのクリスタルと共に、虚無に包まれる。


 ……大丈夫。

 少しなら課金できる。

 まず、少しお得なクリスタルセットを購入して。

 そう思いながら、クリスタル販売の画面を開く。

 少しお得。2000円で10連……。

 いける。

 追加の10連。

 しかし、私はユウくんと共に再度虚無に包まれる。

「…………」

 大丈夫。

 まだいける。

 あと…………3回くらいなら。

 お得なセットはもうない。

 でも、いける。

 3回追加の10連。

 出ない……。虎鉄くんどころか、星4も出ない。

「うぁ〜〜〜〜〜〜」

 床に顔を押し付ける。

 もう……もう1万円も課金しちゃったのに……。


 ここまでくれば何の成果もない1万円は許されない。

 私は……クレジットカードと睨めっこをした。

 大丈夫。

 ご飯を減らす余裕はある。

 手持ちのクリスタルの分で、9万円も使うわけでもない。

 ……行くか。

 私は、足を踏み入れた。「出るまで引く」という悪の道。

 ガッ、チュインチュインチュイン……。

 カードを引く演出をいちいち見ていたら、心臓がもたない。画面を連打すると、耳には演出を飛ばした音だけが響いた。

 1回……。2回……。3回……。

 これで、全部で15回引いたから、天井まではあと半分。

 出ない画面ばかりが続く。

 16……。17……。18……。

 18回目の10連で、また星4の演出。まさか……と心を躍らせる。SNSに出たときの心境をどう書くかまで考えたところで、「…………」悲しみが私を包む。

 だんだんなんとも思わなくなった課金画面。

 でも、1回パスワードを入れる度に、3000円が私のお財布から引かれている。

 19……。20……。21……。22……。23……。24……。

 そのあとは、もう当たり前のように虎鉄くんは出なかった。

 天井までいったところで、カード交換画面で、虎鉄くんの星4カードと交換する。

「うん。よし」

 ガチャは悪魔だ。お財布の中のことは、あえて考えない。

 星4虎鉄くんが大きく映し出されたスマホの画面を、震える手で見た。

「……尊い……」

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私の推しはガチャの中にいる みこ @mikoto_chan

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