第8話 異世界転移 3日目 昼前~


 「網目を魚より小さくして、後はそれっぽくなったら出来上がりだな。名付けて手投網だけど手で投げない!……うん、今のなしで。……やっぱり、魔翠石さまさまだな。後は、魔力操作でこうだ!」


 魔翠石で錬成した手投網を魔力操作で網の部分を広げ、水面につける。そこから、本来の手投網ように操作して、水の中から引っ張り出す。すると、10匹ほど魚を捕まえることが出来た。


 「大漁、大漁!これならあと2回ぐらい手投網で魚を確保できたら、ひとまず今日と明日の分は大丈夫だな。」


 その後、しっかりと2回とも10匹前後を捕まえることが出来たので、手投網の漁を終了する。

 氷魔はディレット達を呼び、捕まえた魚のさばき方を教える。


 「いいか?…まず、魚の頭を叩いて脳震盪みたいにさせて動けなくさせる。そのあとに、腹をさばいて内臓とえらをとる。最後に川できれいに洗って、終わりって感じだ。できるか?」


 《アルジドノ。ワタシトテイサツゴブリントヨバレテイルモノナラデキマスガ、アトノモノハテサキガキヨウデハナク。》


 「ちょうど良かった。全員で魚をさばいていると、周りを警戒するものがいなくなるからな。それじゃあ、ディレットと偵察ゴブリンには、俺を手伝ってもらう。他のゴブリンは周囲の警戒だ。」


 ディレット達ゴブリンが頷き、行動を開始する。氷魔はまず、短剣が足りないので短剣を1本錬成し、偵察ゴブリンに短剣を渡してゴブリンと一緒に魚をさばいていく。1時間ほどで魚を30匹さばき、アイテムボックスに入れていく。一応、自分でさばいた魚には目印をつけて自分で食べる用にした。流石にゴブリンがさばいた魚を食べようとは思わなかったためだ。


 (ディレット達ゴブリンには悪いと思うけど)


 普通のゴブリンは、全身緑色の皮膚をしており、

身長が130㎝ほどで口が大きく、所々汚さが目立つ。腰には何かの草で作ったような腰蓑をしている。

だが、氷魔のゴブリンはテイムの効果で嫌悪感を抱かないほどかなり見た目は改善された。しかし、ゴブリンには水浴びの習慣が無かったためか、以前の汚れが思い出されるので、あんまり気にならなくなるまで我慢しようと氷魔は思ったのだった。


 「よし。お前ら、川でしっかりと汚れを落とせよ。いままでのような汚い格好にはさせてやらないからな。」


 氷魔はゴブリン達に水浴びを交互にさせてしっかりと汚れを落としてもらう。その間に水浴びをしていないものは、果物で昼食をとりつつ周囲の警戒をする。氷魔も果物で昼食をすませた。


 「全員水浴びと昼食は終わったな。……よし。なら1回拠点付近に戻ってからその周りの地形を確認する。行くぞ。」


 再び、ディレット達ゴブリンを連れて森の中を歩いていく。30分ほど経ったところで立ち止まり、周囲を見渡し何も無かったことを確認して、拠点にしている場所のまだ行ったことのないところを歩いていく。すると、偵察ゴブリンが氷魔とディレットのところに来て、ディレットに喋りかける。ディレットはすぐさま氷魔に念話で語りかける。


 《アルジドノタイヘンデス!テキガクルソウデス。クワシクハワカリマセン。》


 氷魔が偵察ゴブリンに話しかけようとしたとき、前方から結構な速さで草が動く音と土を踏みしめる音が近づいてくる。


 「クソッ!確認する時間もないか。全員作戦通りに動け!盾ゴブリンは前で敵を防げ!偵察ゴブリンと棍棒ゴブリンは周囲から新しい敵が来るかの警戒だ! ディレット、俺と一緒に盾ゴブリンが防いでいる間に攻撃だ!来るぞ! 」


 氷魔の指示通りにゴブリン達が動く。盾を持ったゴブリンが前に2体、その後ろの右側に氷魔、左側にディレット、さらに後ろで周りを警戒するゴブリンが2体。

 全員が動き終わる瞬間に前方から飛び出してきたのは灰色の狼が3体。狼の体長が頭からお尻までで1.4メートルほど、体高が1メートルほどの体をしている。前方の盾を持ったゴブリンが1体ずつ相手にするが、いいように振り回されている。残る1体の狼が前方のゴブリンを迂回してディレットに向かっていくが、すかさず氷魔が左の操縛糸の穂でディレットに向かう狼の体を刺す。


 「キャン?!」


 だが、氷魔の攻撃に気づいた狼は咄嗟に回避行動を開始しており、操縛糸の穂は少ししか刺さらなかった。


 「後ろのゴブリンは周囲の警戒をしなくて良い! 右の敵を相手しろ! ディレットは左の敵を相手しろ! こいつは俺が相手をする!」


 《ワカリマシタ!》


 氷魔は左右の操縛糸を操りつつ右手で腰のホルダーに入れている短剣を抜く。狼は氷魔の操縛糸を警戒しているが、<ガウゥーン>と鳴き走って来る。


 「正面突破か。!」


 氷魔は右の操縛糸で足から体を狙うように下から攻撃し、左の操縛糸で回避されるのを警戒して、自分の正面に浮かばせていた。狼は操縛糸の攻撃を氷魔の左側に走り込むように回避しつつ噛みついてきた。そこを氷魔は左の操縛糸を渦を描くように操り、盾のようにして攻撃を受け流そうとするが、狼の攻撃の勢いが想像よりも強かったため体勢を崩してしまう。


 「クソッ!」


 そこを狼がすぐに攻撃してくるが、氷魔は渦を描いて盾のようにしていた左の操縛糸で攻撃を受け止めながら、最初に攻撃した右の操縛糸を操り、狼の死角となる操縛糸の盾に隠す。


 (これでも、くらえ!)


 氷魔は狼が噛みついてくる攻撃と攻撃の間を狙って操縛糸の盾の角度を変え、右の操縛糸の穂で足を攻撃する。


 「キャウゥ?!」


 狼が痛みで動きが止まっている隙に、氷魔は距離を取りつつ、右の操縛糸で貫いた足を巻き取って動きを鈍らせる。そのあと、左の操縛糸で体を刺し貫き、突き抜けた操縛糸で体を拘束して浮かばせる。


 「あっぶねー。死ぬかと思った。それに、この大きさでも軽々と浮くんだな。重力が仕事をしてないみたいだな。って、そんなこと言っている場合じゃない!」


 氷魔は急いで前方の狼とゴブリンの戦いを見る。かなりゴブリン達が奮闘しているが、少し時間が経つごとに狼が傷を負うよりもゴブリンの傷の方が多くなっていく。


 現在、左の操縛糸が一時的に使えなくなっている氷魔は、アイテムボックスに入っている操縛糸を1つ取り出し、左手に装備する。氷魔はまだ、操縛糸の細かい動きは左右1本ずつしか動かせないが、細かい動きではなければ2、3本ずつ動かせる。今回は、狼を拘束しているだけなので問題なく動かせるため左手に2つ目を装備する。


 細かい戦況は、左の狼と戦っているディレットと盾ゴブリンは2対1と1体多いのだが、狼の速さに押されている。右の狼と戦っている棍棒ゴブリンと偵察ゴブリンと盾ゴブリンは3対1でゴブリンの数が多く、偵察ゴブリンの動きが他より速いため何とか対等に戦えているという状況だった。氷魔は戦闘をしていて離れてしまったディレット達に向かって走る。


 (他より知能が高いディレットだからこそ耐えているんだろうな。……だから、ディレットがいなくなるのは困るな。)


 氷魔はまずディレットが戦っているゴブリンに加勢するため、右の操縛糸で盾を持っているゴブリンから狼を一時的に退かせる。その隙に氷魔は盾を持ったゴブリンの後ろに陣取る。


 「遅くなった。ディレットは俺のフォローを! 盾ゴブリンは狼の攻撃を防いでくれ! いくぞ!」


 「グギャギャ!」

 《リョウカイデス!》


 氷魔は左右の操縛糸を操り狼の左右から攻撃する。狼は上に回避せず、前に走り込んでくる。そこをゴブリンが盾で防ぐ。


 「ディレット!今だ!」


 ディレットは自身の槍で狼の目を穿つ。痛みから、狼が後ろに飛び下がる……が、最初に攻撃した左右の操縛糸で後ろから体を貫き、狼が倒れる。最後に氷魔が右の操縛糸で弱っている狼の頭を貫いて止めをさす。すぐに狼をアイテムボックスに入れ、残った狼と戦っているゴブリンの加勢にいく。


 「あと1体だ! 加勢しにいくぞ。」


 「グギャ!」

 《ハイッ!》


 最後の狼と戦っているゴブリンに加勢するために操縛糸で牽制をし、先程と一緒に氷魔が最初に攻撃をし、回避して攻撃する狼をゴブリンが盾で防ぎ、ディレットや他のゴブリンが攻撃して、下がった狼を今度は2本の操縛糸で弱らせずに拘束する。


 「全員! 周囲の警戒! …………あとは、いないな。………ふぅー。疲れたな。」


 氷魔は休憩するよりも先に、最初に戦った狼の確認をする。


 「まだ生きてるな。これでどれだけ回復するのか。 〈テイム〉 」


 テイムのスキルが成功して、狼の体が光り傷が癒えていく。すると、足の怪我だけではなく、体を貫いた小さな穴がきれいに塞がっていき出血が止まる。


 「こんなに回復するのか? 前の時は、テイム時強化 Ⅰ のスキルがLv.2 でレベルが低かったからか?まぁこれで、ある程度の怪我を負わせてもテイムに成功するなら助かるってことだな。そういえば、戦闘が急に始まったから鑑定を使ってないな。テイムしてない狼に使うか。 〈鑑定〉 」


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  魔狼 (本来はただの狼だが、魔素を取り込みすぎたため魔獣に変化した。魔獣は、獣が魔物になったもののことをいう。)

Lv.5  女

能力値

体力 100/100

魔力 10/10

物攻 13

物防 13

魔攻 0

魔防 5

素早さ 20

スキル

・嗅覚向上 Lv.1 

・脚力向上 Lv.1 


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 「へぇー。種族の説明もしてくれるんだ。でもこれって、人間も魔素を取り込みすぎたりすると魔物になるってことはないのかな?………今考えた所で意味はないか。でも、技神の加護(瞳)で強化されてるとこんな情報まで出るんだな。それにしても、能力値の素早さが俺の方が高いのに、魔狼の方が速く感じたな。ステータスが高くても、使いこなせないと意味がないってパターンじゃないか?………少しトレーニングをしないとな」


 氷魔はテイムをしてない魔狼にテイムを使い、成功する。テイム時強化の光が消えたのをみて、2体の魔狼に鑑定を使うとそれぞれ素早さと物攻の能力値が上昇していた。


 「一気に強くなったな。物攻が43の奴と素早さが50の奴。俺より強くなったな。新しい仲間だから、強くても問題はないか。それに嗅覚向上のスキルがあるから、周囲の警戒を任せてもいいしな。」


 氷魔はディレット達に休憩の指示を出し、魔狼との会話を試みる。


 《俺の声が聞こえるか?》


 《なんだ?誰だお前。》「アウン?ガル」

 《?聞いたような声ですね。》「ガルゥ」


 「目の前にいる俺だ。こっちの声も聞こえるか?聞こえるなら、頭の中で喋りかけてくれ。」


 《主人の声か。聞こえている。》

 《主でしたか、聞こえております。》


 (2体とも念話が出来るのか。でもなんで声の感じが違うんだ? 〈鑑定〉 へぇー、魔物の性別なんて出てたんだな。全然気付かなかった。)

 「……これからお前達は、俺の新しい配下、仲間として行動してもらう。先に、この付近に出る魔物と獣を知っていたら教えてくれ。」


 休憩もせず、魔狼からの情報を聞いていく。魔狼が知っている情報で気になったのは、この付近に獣が出ることは無いそうだ。なんでも、さっき見つけた川を水分補給で魔物達が使っているため、魔物に劣っているただの獣はこの付近にはでないそうだ。


 「なるほど、この付近では魔物に気を付けないといけないな。お前達2体で倒せる魔物はいるか?」


 《この近くだと、ゴブリンくらいだろ。俺達2体なら、5体は楽勝で倒せるぞ。》


 氷魔は返事をしつつゴブリン達を見る。ゴブリン達は大きな怪我はしていないが、鑑定でステータスを確認すると、怪我のわりには体力が減っているため、今後の行動を氷魔は考える。


 「みんな来てくれ。……この森で怪我を癒す草を知っているか?」


 氷魔は配下の仲間達に錬金術で使用する薬草の類いの場所をたずねる。すると、魔狼の1体がそれらしい場所を知っていた。


 魔狼が言うには川の上流側に行くと、あまり森では見ない草が生えているらしい。


 「偵察ゴブリンと魔狼2体を先頭に川に戻るぞ。魔狼は、先頭を行くゴブリンについていってくれ。」


 配下の魔物達が各々に返事をして、全員で川に戻っていく。何事もなく川についた氷魔達は、そのまま川の上流に向けて鑑定を使いながら歩いていく。30分ほど歩くと、森側の方にある鮮やかな薄緑色の草に目をむける。


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  癒し草

 薬草の1種。錬金術により貴重なポーションになる。

 この薬草は、風通しがよく空気中の魔素がある程度豊富な場所に生えている。

 薬草は基本的にある程度の数が固まって繁殖しており、根を残して採取することで時間をおけば何度でも採取することが可能。

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 「 〈錬金術〉…… 回復ポーション(初級)のレシピにも癒し草って書いてあるな。さっそく採取してつくってみるか。」


 氷魔は回復ポーション(初級)に必要な癒し草と水を準備して錬金術を使用しようと錬金術のパネルを操作した。すると新しく錬金術のパネルに説明が表示された。


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 *錬金術を使用するには、地面に○を描き、○の中に△を描いてください。そのあと、描いた陣の上に素材をおいてください。

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 「なんかそれっぽいけど、随分と簡単そうだな。槍を取り出して、石突で。………こんな感じかな?」


 氷魔が錬金術の魔法陣?のようなものを地面に描き、魔法陣の上に採取した癒し草3枚と水の入ったコップを置く。そして、錬金術のレシピ、回復ポーション(初級)を押すと魔方陣に氷魔の魔力が流れていき、光だす。数秒が経ち、光がおさまると、癒し草がなくなり、水が少なくなったコップと回復ポーション(初級)だと思われる薄緑色の液体が入った、コルクで蓋をしている試験管があった。

 氷魔は試験管に鑑定を使う。


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  回復ポーション(初級)

 大きくない怪我を癒してくれる。また、個人差によってステータスの体力を回復する。

 使用方法は、飲むか怪我をしている場所に直接かける。使い方によって回復に違いが出る。

 容器は魔力で作られており、中の回復ポーション(小)を使ったあとは、空気中の魔素になるため、ある程度の時間をおくとそのまま消えてなくなる。

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 「とりあえず完成かな?」


 氷魔は初めてポーションを作ったため、これであっているのか不安な気持ちでいた。





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