第4話 異世界転移 2日目 昼~


 氷魔は森に向かって歩きながら操縛糸の操作をしていた。操縛糸は指輪から10メートルぐらいのワイヤーがのび、ワイヤー部分の先端には、10センチメートル程の槍の穂の部分がついている武器だ。そのため、ワイヤー部分が邪魔にならないように籠手に巻きつけているのだが、全部巻きつけていると戦闘の初動に遅れが出るといけないので、1メートルほど籠手に巻きつけず、先端の穂の部分を手に持っていた。


 「木を切り倒すのはあとにして、食料調達をしに行こう。」


 森の中を進んでいき、1時間ほどたった頃。左側から、物音が聞こえてきた。氷魔は近くの木の影に隠れる。


 (目視できる距離じゃないみたいだな。

まだ遠いのか?……少し近づいてみるか。)


 物音がした方に向かって、隠れながら進んでいく。すると、聞き覚えのある声が聞こえる。


 「グガギャギャ!」「ギャガ!」

 「グギャギャ、グガ!」


 (ゴブリンだな。…まだ見えないが、3体ぐらいいそうだ。逃げるか?……いや、操縛糸は10メートルまでとどく。5メートル付近まで近づければ、絡みつかせて捕縛できる。そのあとに、テイムすればいい。ただ、今操作できる操縛糸は2本。1本で2体捕らえるか、先に殺すか。)


 氷魔は頭の中で考えながら近づいて行くと、ゴブリンの姿がみえてきた。周囲に鑑定を発動しながら、ゴブリン達の5メートル近くまで接近し、状況を確認する。

 ゴブリンは全部で3体。3体のゴブリン同士で争っている最中のようで、周囲に他のゴブリンや魔物などは見つけられなかった。ゴブリンのステータスは3体ともこのように表示された。


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ゴブリン

 Lv.3  男

能力値

 体力 25~40/60

 魔力 0/0

 物攻 7

 物防 7

 魔攻 0

 魔防 3

 素早さ 7

スキル

 悪食

 棍棒術Lv.1


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 残りの体力にばらつきがあるが、初めて遭遇したゴブリンとたいした変化はない。そのとき1体のゴブリンが、他の2体から集中的に攻撃され、気を失った。


 (よしっ!今だ!)


 氷魔はゴブリンが固まっているところに素早く左手の操縛糸で、ゴブリン2体を一気に捕縛した。その後、右手の操縛糸をいつでも動かせるように自分の近くで浮遊させ、気を失ったゴブリンの2メートルぐらいまで近づく。


 「ここまで近づけばテイムのスキルも使えるだろう。なんせ、どれぐらいの距離でテイムが使えるのか説明にないんだもんな。…とりあえず、ゴブリンが起きる前にすませるか。………〈テイム!〉」


 ゴブリンに意識を向けつつ右手をゴブリンに向け、スキルの発動するキーワードを声にだす。


 『ゴブリンのテイムが成功しました。』


 なぜレベルアップした時に音声が聞こえないのに今回は音声が聞こえるのか。氷魔は疑問に思ったが、一番最初の説明からわからないことが多いため考えても無駄だと、考えるのをやめた。

 ただ、氷魔にとってはかなりうれしいことでもあった。なぜなら、テイムの発動できる距離を知るために、テイムが成功したか確認する手間がはぶけたからだ。そういうこともあって、氷魔は難しく考えなかった。

 すると急に、テイムに成功したゴブリンが少しだけ体を光らせた。光が消えると、ゴブリンがケガをしていた場所が治っていたり、きずが少し塞がっていた。特に、見た目の嫌悪感がなくなるぐらいには良くなっていることが驚きだった。

鑑定で確認してみると、体力の数値が少し回復し、物攻の能力値が13まで強化されていた。


 「へぇ~すごいな。俺とほぼ一緒の能力値まで上がったのか。これなら、他の2体もゲットしたいな。」


 氷魔は念のために気を失ったゴブリンを、操縛糸で揺すり起こす。するとゴブリンが起きあがりキョロキョロと周りを見て、氷魔を見つけるとお辞儀をし、何かをしゃべったが、まったく意味がわからず、氷魔は試しに念話のスキルを使う。


 《おい、聞こえるか?ゴブリン。》


 《ナッナンダ?!コッ、コノコエハ?ドコニイル?》

ゴブリンが周りをキョロキョロと見ていた。


 《目の前にいるだろ。お前をテイムしたんだよ。あと、声は出さなくていいからな。意味がわからない。》


 《アッ、アルジドノノコエデスカ。》


 《それと、俺と会話するときは、今みたいに頭の中で喋りかけてくれ。ただ、声をかけるときは、急に喋りかけるなよ?》


 《ワカリマシタ!アルジドノ。》


 その後、少しゴブリンと話をしてみると今回ゴブリンが争っていたのは、食料を調達するために誰がリーダーになるかケンカになり、殺しあいに発展したそうだ。なので少し気を使い、2体のゴブリンをテイムしても大丈夫か聞いたところ。俺がトップで仕切れば問題ないということを言っていた。そのため、残りのゴブリンを5メートルと8メートルの2回にわけてテイムを行ったところ、まず8メートルまでは、テイムの発動範囲だということがわかったが、1体のテイムに失敗してしまった。だが、テイムに失敗したときには、このような音声が流れた。


 『テイムに失敗しました。

同じ個体には、テイムのスキルを使うことが出来ません。』


 というように、テイムは1体に対して1回しか使えないことがわかった。とりあえず、テイムに成功したもう1体のゴブリンから光が消えるのを確認して、ステータスを見ると物防の能力値が13に強化されていた。だが、念話のスキルが使えなかった。というのも、念話で声をかけても、まったく反応しなかったのだ。そのため、最初にテイムしたゴブリンと詳しく話したり検証をし、最初にテイムしたゴブリンから2体目にテイムしたゴブリンに話を聞いてみてもらったところ、なんと。

 このテイムしたゴブリン達には、俺が喋っている声の意味はわかるが、念話では、最初にテイムしたゴブリンにしか聞こえなかったこと。ただ、テイムをした段階でしっかりと俺を主とした、主従関係が成立することがわかった。


 (う~ん。やっぱり、話ができるゴブリンには、名前をつけた方が今後やりやすくなるよな。)

 「……お前の名前は、ディレットだ。これからよろしくな。」


 《ハッ!コレカラハ、ディレットトシテガンバリマス!》


 テイムに失敗したゴブリンを見て氷魔は、現在の考えられるレベル上げとして。定番の魔物を殺すことがレベルを上げる為の経験値を獲得できる行動だろうと一番に考えていたが。もし、ジョブに関連する行動にも経験値がもらえるのなら、魔物を殺すことよりも少ないのではないのかとも考えていた。そのため、ゴブリンのディレットには、この森で知っていることを話してもらった。


 ディレットが知っていたことをまとめると、この森にはゴブリンの集団がある程度ばらけて住んでおり、その集団には必ずと言っていいほど、ゴブリンの上位種がいるということ。ディレットがいた所には、ハイゴブリンという上位種がいるそうで、ディレット的には、かなり強いらしい。

 2つ目の情報は、ゴブリンの他にもかなりの魔物が森のなかにいるが、ゴブリンはかなり弱い部類で、ゴブリン1体で下の下の強さが、ある程度の集団で下の上ほどの強さになるそうだ。そのため、この世界に飛ばされてから、俺が遭遇した生きた魔物がゴブリンだけだったのは、かなり運が良かったらしい。それと、ディレットがいくら知能が高くてもゴブリンの中でのことなので魔物の種類とかは、全然知らなかった。なぜハイゴブリンは分かるのか疑問だが。

 3つ目の情報は、ゴブリンが食料を調達する場所が、ここから10分ほど歩いた場所にあるということ。一応ゴブリンの食い物が俺でも食えるのか、どういうものがあるのか、しっかりと聞いてみると果物みたいな物がなっている木であったり、それを食べに来るゴブリンと同等位の魔物というざっくりとした情報だった。

 4つ目の情報は、ここから遠いところに何かの建物があるらしく、ゴブリン達はそこで暮らそうとしたそうだが、その中に入ることが出来なかったそうだ。

 最後の情報は、少しではあるが、以前より食料を調達しに行ったゴブリンが帰って来ないそうだ。俺は大したことでもないと思ったが最後にディレットは、武器を持っていない人間を昨日見たということを他のゴブリンから聞いたらしい。


 「まじか。やっぱり武器を持ってないってことは、俺以外にもバスに乗っていたやつがこの世界に飛ばされたのか?出来れば、クラスの不良グループや自己中な奴らには、関わりたくないな。………とりあえず、ディレットの情報を元にこれからのことを考えないとな。まずは、テイムに失敗したゴブリンは、俺が止めをさしておくか。」


 操縛糸の先端でゴブリンの心臓を貫き、止めをさした。魔石を取るのにも時間がかかるため、魔石を取らずにその場を離れ、探索を再開する。

 その後、氷魔はアイテムボックスからホーンラビットの肉の焼きおきをゴブリンに少しだけわけてあげ、食べ歩きながら、ディレットの情報にあった果物がなる木の場所に行き、果物を採取しようとしていた。


 「立派な木だな。こっちは、紫色の皮で形は普通のバナナ。そして、綺麗な緑色の皮でやっぱり形は普通のリンゴ。最後は、普通のぶどう。ぶどう以外なんかちょっと違うな。……〈鑑定〉」


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  バナス

 栄養満点でおいしい果物。甘くておいしい。

 バナスと似ているものはなく、毒を持っている果物と間違えることはない。

 

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  リンゴ

 みずみずしくて、おいしい果物。

 魔力を含んでおり、体の疲れをとりやすくしてくれる。

 リンゴと似ている果物はなく、毒を持っている果物と間違えることはない。

 

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  ブールット

 他の果物と比べて魔力をおおく含んでおり、奇跡的な力を持つ果物。

 ステータスの能力値を上げることがたまにある。とても希少な果物。この世界で現在、知っているものはいない。


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 「なんでリンゴはリンゴなんだ?……まぁいいか。ブールット?これはできるだけほしいが、念のため他の果物と同じく、木になっている半分ほどの量を、アイテムボックスにいれておこう。ディレット!もう1体のゴブリンと一緒に果物を採るのを手伝ってくれ。」


 《ワカリマシタ。》


 その後、1時間ほど果物を採取していると果物を食べに来たと思われる魔物がやって来た。


 来た順番は、ホーンラビット1匹、ゴブリン2体、ゴブリン3体、ホーンラビット1匹、ホーンラビット2匹、ゴブリン3体、ホーンラビット1匹、ゴブリン2体という順番だった。とりあえずホーンラビットはすべて操縛糸で殺し、アイテムボックスにしまった。ゴブリンは、最初に来た2体と次に来た3体のうち1体の合計3体がテイムに成功し、残りの7体のうち4体を操縛糸で殺し、残りの3体は、ディレットの経験値にした。

 今回のゴブリンの魔石は、テイムしたゴブリンに取り出してもらい、アイテムボックスにいれ、ゴブリンの死体は、果物の木から離したところの土に埋めておいた。


 「いやぁ~今回は楽だったな。ディレット達に前衛をしてもらって、操縛糸で捕らえてそのまま止めをさせたからな。それに、今回はテイムの発動が9メートルまでは可能だと確認出来たけど、操縛糸の長さが足りなくてそれ以上の距離は確認できなかったし。

……それにだよ、ディレット以外のゴブリンは、念話が出来なかったからディレットからしか直接会話が出来ないのがめんどうだよな。」


 戦闘が終わったあとの氷魔は、思い通りにならないことに少々愚痴っていたのだった。




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