星のあめ

麦野 夕陽

1話完結

 女の子がいました。

ある日、女の子のお家の近所に女の子と同い年の男の子が引っ越してきました。

女の子と男の子は仲良くなって、毎日のように遊ぶようになりました。

女の子は聞きました。「どこから来たの?」

男の子は答えました。「星の見える村だよ。」

やがて、また男の子は別の町に引っ越すことになりました。

女の子は悲しみました。せっかくこんなに仲良くなったのに、と。

男の子は引っ越す直前に女の子にある物をプレゼントしました。

飴玉でした。光る飴玉でした。あまりに綺麗なので女の子は宝箱に入れようかと思いましたが、男の子に食べてほしいと言われたので食べることにしました。口に入れるとシュワシュワして、甘くて爽やかな味でした。



 時が経ち、女の子は大人になりました。

幼い頃、よく遊んだ男の子がいたことはうっすら覚えていましたが、顔はもう思い出せません。



 大人になった女の子は、電車に乗っていました。なんとなく、いつも降りる駅を通り過ぎて終点まで行きました。

すっかり、夜になっていました。ふと空を見上げると、今まで見たことのない満点の星空でした。

星空に見とれて歩いていると、骨董屋につきました。こんな夜中に、骨董屋が開いていました。

中に入ると、かなり時が経っていそうな置物やお皿などがところ狭しと並んでいました。

1つの透明なグラスが女の子の目にとまりました。

一見、なんの変哲もない、グラスです。

でも、女の子はそのグラスに惹かれて、それを買いました。

お会計をしてくれたおじいさんは、

「これが売れるのは20年ぶりだね。」

 と、呟きました。

店を後にしようとする女の子の背中に向かって言いました。

「窓辺に置いとくといいよ。」



 女の子は家に帰ったあと、買ったグラスを言われた通りに窓辺に置きました。

不思議と飲み物を注いで飲むために使う気にはなりませんでした。



 夢を見ました。

雲ひとつない満点の星空から何かが降っていました。

降り方は、雪のように軽やかでした。

しかし、雪のように白くはなく、金色や赤色や青色に見えました。

降るものひとつひとつが輝いていたので、火の粉かと女の子は思いました。

しかし、手のひらを前に出して触ってみても熱くありません。

むしろ、ひんやりとしています。



 女の子は目を覚ました後、不思議な夢を見たような気がしました。しかしよく覚えていません。

ふと窓辺のグラスを見ると、底に光り輝く液体が僅かに入っていました。

黄金にも見えて、朱にも見えて、碧にも見えました。

とても目を惹く、美しいものでした。



 夜が明けるたびに、グラスの中の液体は増えていきました。



 とうとう、グラスから溢れる直前まできました。

明日の朝には、どうなっているんだろう。

全部無くなっていたらどうしよう。

期待半分、不安半分で眠りにつき朝を迎えました。



 朝、グラスを見ると輝く液体は無くなっていました。

かわりにある物が入っていました。

光り輝くまんまるの固形物でした。

昨日までグラスに入っていた液体を凝縮したようなものでした。

顔に近づけると、甘い、爽やかな香りがしました。

どうやら、飴玉のようでした。

しかし、自分で食べるのはもったいなくて、袋に入れて家の棚に保管することにしました。



 ある日、職場の同僚が明らかに落ち込んでいました。

どうやらミスをしたようです。

その同僚は甘いものが好きなようで、よくお菓子を食べているところを見ていました。

今朝コンビニで買ったチョコレートを渡して励まそうと思いつきました。

しかし、バッグを探しても買ったはずのチョコレートが見当たらず、かわりにあるはずのないものが入っていました。

家の棚に保管してあるはずの飴玉でした。

飴玉をバッグに入れた覚えは全くありません。

飴玉は今までで一番輝いているように見えました。

あまりに不可思議なことにバッグから出した飴玉を見つめていると、同僚が声を上げました。

同僚を見ると、飴玉のように、もしくはそれ以上に目を丸くしています。

「そっ、それっ……」

 そんなにこの飴玉が欲しいのか、と思いました。想定外の出来事でしたが、飴玉をあげることにしました。

飴玉を受け取った同僚は、震える手で飴玉を受け取り、口に入れて言いました。

「シュワシュワする……!」



 その日帰宅して、あのグラスが無いことに気が付きました。家中を探しましたが見つかりませんでした。



 時が経ちました。あれから同僚にアプローチを受けてお付き合いした後、結婚しました。

子どもも授かりました。


 ある日、夫の生まれた地に遊びに行くことになりました。

散歩している途中に見つけた骨董屋に入りました。

なんとなく見覚えがあるなぁと思いながら店内を見回していました。夫も似たような表情をしていました。

娘が、何か手に持って駆け寄ってきました。

「これ欲しい!」

 なんの変哲もないグラスでした。しかしそれは、かつて自分が持っていたグラスだとわかりました。

「「あっ!それっ!」」

 自分が声を上げると同時に隣にいた夫も全く同じ反応を示しました。

二人は顔を見合わせて、笑ってしまいました。

娘は、キョトンとした顔をしていました。



 店の外の空は薄暗くなってきていて、星が顔を出しはじめていました。

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