第12話

 近所にあしゅらさんというおじさん(お兄さん?)が住んでいる。眼鏡をかけたやせっぽの男の人で、何の変哲もないフツーの人間だと思ったのだが、実はとんでもない秘密を持っていた。


 あしゅらさんは右腕が二本、左腕が二本ずつ肩についている。そのことを知ったのは、ある日の夕方のことだった。

 学校から家に帰る途中、あしゅらさんが二階建ての建物のベランダの柵に手をかけて、窓から夕陽を見ていた。僕は四本並んだ手を見て、てっきりあしゅらさんの後ろから誰かが手をまわしているのかと思ったが、あしゅらさんが四方八方に手を伸ばして窓を閉めようとした時にそれに気づいた。

 あまりにもびっくりして、ワッ、と大きな声を出してしまった。するとあしゅらさんがこちらに気づいて、にっこりと笑いかけてきた。僕は逃げようとしたが、なんだか悪いのでとりあえず愛想笑いしておいた。あしゅらさんは右手を一本だけ口の前に持ってきて、しーっと言った。

 これが、あしゅらさんとの出会いだった。


「あしゅらさんはどうして腕が四本あるの?」


 あとになって聞いてみた。あれから、僕はたまにあしゅらさんのアパートに行ってゲームしたりするようになった。僕たちは今日も一緒に格ゲーをしていた。

 

「さぁ。オレ様にもよく分からないのだ」


 あしゅらさんは相変わらず変な言葉使いだった。あしゅらさんは腕が四本あっても、ゲームはへたくそだった。

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