第13話

 再び日本の空港に降り立った時、日本はまだ冬だったということを思い出した。

 天気は雨。空気は湿気ているが冷たく、薄着だったせいもあって鳥肌が立っていた。それにしても半ズボンはやめたほうがよかった。常夏のタイで毎日異国の香りに包まれていたせいで、すっかり南国気分でいた。

 タラップを降りているときも、オートスロープを歩いているときも、平衡感覚が失われたのか足がふらつくように感じた。

 頭がぼうっとするのに加え、なんだか妙に股の間がスースーする。

「……当然っちゃ当然か」


 空港のトイレで少し手間取って一人悶々とした後、俺は都心へ向かう電車に乗った。椅子にもたれて窓の外側を走る水滴を見つめていると、ハネムーンを終えた新婚夫婦と思しき二人が俺の向かいの席に座った。

「ねぇ、今度はどこに行こっか?」

「えぇ、そんなにお金ないよ? でも、君と一緒ならどこでもいいかな」

 ブチ殺すぞ。

 何が成田離婚だ。世の中のカップルの大半はこいつらみたいに幸せなんだろう。

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